第3話 荒廃した街

 ブラックホールの中を進む。

 まるで足を誰かに引っ張られるようにグイグイと引き込まれていく。

 視界は黒一色。

 目を開けているのかわからなくなるほど黒い。

 まあこれも慣れてくればなんとも思わない。

 新幹線でトンネルを抜けるような感覚だ。

 さてそろそろトンネルも終わりかな。

 身構えて待っていると一気に視界が明るくなる。

 その眩しさに目をつむる。

 そしてゆっくりと目を開けると俺は雲の上にいた。

 太陽が照りつけていて眩しい。

 この星の太陽も元気がいいみたいだ。

 そして一気に雲を突き抜ける。

 雲は黒く染まっている。

 雲の上とは大きな違いだ。

 これも『ダークマター』の影響だろう。

 ストレンジのいる世界には例外なくダークマターが存在している。

 研究者の間ではストレンジが星を乗っ取るための殺人ウイルス。それがダークマターだという者も少なくはない。

 

 地面が迫ってきた。

 俺は頃合いを見てパラシュートを開く。

 グッと反動が来て減速し始める。

 そしてゆっくりと地面に着陸する。


 「暑い」


 俺は超重力耐久防護服グラビティーアーマーを脱ぎ捨てる。

 このアーマーは来るときしか使わない。

 現地に到着すれば脱ぎ捨てる。

 そんなものを作るのに兆単位の金が飛ぶ。

 いつかはもっとコストがかからないアーマーになってるかもな。

 俺はネクタイを締め直しコートを着直す。

 コートにはナイフが装着されている。

 あらゆるナイフを備えいかなる敵にも対応できるようにしていた。


 何度もブラックホールに落ちているとわかることがある。

 それはどの世界も地球とよく似ているところだ。

 空気があり人型の生物がいる。

 

 少し深呼吸する。

 妙に血なまぐさい匂いが鼻孔に突き刺さる。

 何度嗅いでも慣れない匂いだ。

 次に地面を確認する。

 舗装はされていたが長いこと放置されていて傷んでいる。

 隙間には砂が入り灰色の植物が顔をのぞかせている。

 一言で言うならば荒廃した荒野とでもいうところか。

 自然は3日あれば元に戻るという。

 それは俺が見てきた世界でもそうだった。


 遠くに建物らしきものが見える。

 しかし遠くから見ても朽ちているのが伺える。

 俺の好きなヨーロッパ風な建物だが朽ちてるのは好みじゃない。

 見ていると悲しくなる。


 俺は歩き始める。

 なにもない荒野、砂に足を取られて少し歩きづらい。

 砂嵐が吹き荒れ目にチクチクとした痛みが走る。

 腕で顔を守りできるだけ砂が目に入らないようにする。

 そしてひたすらに歩く。

 あたりに何も無いせいか歩いている時間が長く感じる。

 

 そして歩き続けてやっと街に到着する。

 さてまずは人がいないか確かめるとしよう。

 俺は低い視力とまだ正常な耳を使い人を探す。

 街の建物は崩れかけていて今にも倒れそうだ。

 

 俺は街のメインストリートにたどり着く。

 こうなる前は活気に満ち溢れていたのだろうと想像する。

 行き交う商人、剣を持った旅人、そこらじゅうを駆け回る子供。

 すると俺の耳にかすかな音が聞こえる。


 なにか弱々しい声。

 今にも消えそうな命の声を聞く。


 俺は地面に手を当てる。

 地面に響くかすかな振動を俺の超人的な力が感じ取る。


 「ここより東に50メートルか」


 俺はそう推測する。

 そして俺は声を頼りに歩き始める。

 声をたどっていると狭い路地裏に入る。

 そしてゴミ箱のような場所にたどり着く。

 蓋を開けると犬が震えながら小さな声で鳴いていた。

 犬種はわからないが小さく白い毛並みをしていた。

 犬は俺を見るとすがるようにペロペロと俺の指をなめる。


 「腹が減ったか?」


 犬は弱々しく唸る。

 これも人探しのついでだ。

 俺は犬のために食べ物を探すことにした。


 「しばらくここで待っていろ」


 俺はまだ崩れなさそうな建物を探り食べ物を探す。

 俺の食べ物は必要なかった。

 ダークマターを多く摂取したクローザーは空腹にならない。

 そして体力も減らない。

 だから永遠と何も取らずに生きることができる。

 研究者によるとダークマターが体で増殖してそれ自体が栄養源となるようだ。

 だから俺は長いこと食べ物を探すことができた。

 そしてパン屋と思われる建物から砂糖のようなものを見つけることができた。


 「まあ腹の足しにはなるか」


 俺は路地裏に戻る。

 ゴミ箱の蓋を開けて犬に砂糖をあげようとしたがそこに犬の姿はない。

 場所を変えたのかとも思ったがあの体力ではゴミ箱から出ることも至難の業だっただろう。

 俺は周りを見る。

 すると赤いものがべっとりと地面についていた。

 俺は指で触り感触を確かめたあとに匂いを嗅ぐ。

 間違いない血だ。

 しかも新しい。

 俺の脳裏に悪い予感がよぎる。

 俺は血の跡を追っていく。

 すると開けたところに出る。

 公園のような場所だ。

 

 『ぐちゃぐちゃぐちゃ』


 近くで何かをこねるような音がする。

 俺は慎重に音のする方に向かう。

 血の跡も音のする方に伸びていた。

 俺は草むらから顔を覗かせる。


 すると赤い肌をした人型の化け物達が犬を食べていた。

 音は咀嚼する音だった。

 ストレンジだ。

 ストレンジはブラックホールの中にいる超生物。

 異世界を滅ぼす謎の敵。

 ストレンジに顔はなく口だけがついており鋭い爪で身を切り裂き鋭利な歯で細かく噛み砕いていた。


 俺は片手に持っていた砂糖の袋を地面に置く。

 その代わりに右手に料理包丁を持つ。


 草むらから飛び出しストレンジの一体の脳を切断する。

 他のストレンジは唖然として俺を見る。 

 それはただ俺が速くストレンジを殺したのを見て驚いているのではない。

 ストレンジは例外なく鋼鉄のような肌を持っており通常の攻撃では傷をつけることができない。

 そんなストレンジを両断したのは俺が強すぎるだけではなくこのナイフに秘密があった。

 このナイフは地球のコアを削り作り出した武装。

 どんなものよりも固くそして鋭い。

 この武器で切れない物はない。


 俺は死んだストレンジが地面に倒れ伏せる前に二回目の攻撃を仕掛ける。

 なるべく無駄な動きをせずに最短で命を刈り取る。

 狙うは別のストレンジの頭。

 硬い皮膚を持ってしても脳を破壊されればストレンジは死ぬ。

 俺はナイフを一閃する。

 しかし相手を捉えた感覚はなかった。

 ナイフは空を切りストレンジは後ろに素早く後退していた。


 「おいおい、今のおじさんの本気だったんだけどな」

 「シャー!!」

 「キキキキキキキキ、カァー!!」


 ストレンジが威嚇してくる。

 どうやらこのストレンジは言葉を介さないようだ。

 俺は料理包丁をくるりと回転させて三度目の攻撃に移る。

 今度はコンパクトにナイフを構え鋭く短い突きを放つ。

 それをストレンジは素早く躱す。

 俺は何度も突きを繰り出す。

 狙いは頭。

 脳を一突きすれば簡単に死んでくれるからな。

 しかしストレンジは突きもあっさり回避する。


 「はぁ、俺も年にはかなわないってか」


 突きを躱しきったストレンジは自分の手のひらから槍のようなものを取り出す。

 もちろん槍はストレンジの皮膚と肉で構成されている。

 2体のストレンジはこちらの出方を伺うように間合いを取りながら攻撃の隙きを探る。

 流石にきついな。

 俺は能力を使うことにした。

 目にダークマターを集める。

 するとストレンジの次の行動が予測される。

 俺の目には次にどんな動作を行うのかが見える。

 簡単に言うと『未来予測』みたいなもんだ。

 俺はこれを未来視ビジョンと呼んでいた。


 ストレンジは上段からの突きを放つ。

 それを躱すと2体目の薙ぎ払いが来て俺の腕が切断される。

 という未来が見えた。

 俺は料理包丁からシャープネスナイフに武器を変える。

 これは俺の持つナイフの中で一番長く刃先が鋭くなっている。

 突き刺すことだけに特化したこのナイフを俺は槍投げの選手みたいにナイフを持ち投げつける。

 そしてストレンジ2体の胴体を貫通して串刺しになる。

 俺は戦闘に勝利した。

 しかし2体のストレンジはまだ死んでいなかった。

 俺はまた料理包丁に切り替えて脳を刺しとどめを刺す。

 それからシャープネスナイフを引き抜きコートにしまう。


 なかなか疲れた。

 コイツラが群れで襲ってきたらさっきのように無傷で殺すのは不可能だろう。

 その場合は更に能力を使わないとな。

 俺は霞んだ目に目薬をさす。

 未来視の能力は視力を大幅に消耗する。

 だから目薬をさしてできるだけ視力の低下を防ぐ必要があった。


 俺は犬の亡骸に近づく。

 犬は見るも無残な姿になっており蘇生はできそうになかった。

 俺は犬の傍らに砂糖の袋を置いてやる。


 「来世では砂糖が食えたらいいな」


 俺はその場をあとにする。

 そしてしばらくこの街を見てみたがここには人はいないようだ。

 人間の骨が所々に散乱していたのを見るとここで暮らしていたのは確かだがどこかに移動した、またはもうすでに全滅したと考えるべきだ。

 俺個人としては前者に望みをかけたい。

 俺が街を歩いている間にもストレンジを倒していたがここにはコマンダーがいないようだ。

 コマンダーはストレンジに命令を与えるリーダー役。

 そいつがいるとストレンジは言葉を使うようになる。

 ここにいるストレンジは言葉を話さない。

 故にコマンダーはいない確率のほうが高い。


 俺は次に向かう街を探るためにここいらで一番大きな屋敷に足を運んだ。

 屋敷はこの街で一番でかく立派だ。

 廃墟となってもわりときれいに残されていた。

 こういうところに地図があると俺は経験で知っていた。

 屋敷に入り片っ端からドアを開けて机の引き出しなんかを調べる。

 引き出しからは大量の虫が出てくる。

 中にはウニョウニョ系も混じっていた。

 

 「俺はウニョウニョは嫌いなんだ」


 愚痴をこぼしつつ俺はようやく地図を手に入れた。

 地図は壊れかけていたり虫に食われていたりした。

 まあ読めなくもないこれでよし。


 俺は地図を見る。

 どうやら今いるところは南の街らしい。

 ここから北に進むと王都が存在する。

 ここならば人がいるかもしれん。

 俺は地図をポケットにしまい込む。

 そして屋敷を出ようとすると俺は気配に気がつく。

 一階の扉が開き何かがさまよっている。

 俺は耳を最大限に使い情報を集める。

 敵は一人。

 足音が4つするが呼吸しているのは一つのみ。

 考えられるのは四足のストレンジ。

 俺は室内での戦闘を予測して短めの果物ナイフをコートから取り出しその瞬間を待つ。

 そして息を整え扉が開くのを待つ。

 出てきたところに足で蹴りを入れて脳を揺らし麻痺させその隙きに果物ナイフで心臓を3回突いたあとに脳に一撃を入れる。

 心臓を狙うのは脳を刺したあとに反撃してくるのを防ぐためだ。

 脳は破壊されても三秒ほど活動を続ける。

 故に先に心臓を狙い出血多量で貧血にさせる。


 俺は扉の近くで敵が来るのを待つ。

 呼吸は最低限に自然と同化する。

 俺は耳と体の神経で敵の行動を予測する。


 敵は下の階で何かを物色している。

 食べ物がほしいのか?

 そして再び歩き始めると今度は歩みを止める。

 ちょうど俺の真下。

 まさか?!


 俺は前に回避して攻撃を避ける。

 すると下の階から大きな鎌のような腕で床を切り裂き2階に登ってきた。

 顔はなく口だけがあり四本の足を器用に動かし大きな舌をジュルリと動かす。

 想像以上だ。

 身長はかなり大きく3メートルを軽く超えている。

 そして気持ち悪いことにこいつの体のいたる所に人間の顔や手足がくっついている。

 こいつが捕食したのだろう。

 大型ストレンジは舌を針のようにして伸ばし攻撃してくる。

 俺は身をかがめパンチで下から舌を叩く。

 しかしあまり効いていないようだ。

 俺のパンチは鋼鉄をも砕く。

 大型ストレンジは器用に攻撃の威力を逃したみたいだ。

 そして続けざまに舌で攻撃してくる。

 まるでマシンガンのように絶え間なく攻撃してくるので俺は躱すことに集中する。

 躱した後、後ろの壁に穴が無数に空いていく。

 これでは攻撃に転ずることができない。

 後ろの壁はもろくなっている。

 そうだ。

 俺は舌を回避して後ろの壁にタックルする。

 そして隣の部屋に移る。

 そこはバスルームで大きなバスタブが置いてあった。

 俺はすぐさまバスタブを片手で持ち上げストレンジに投げつける。

 大きな音を立ててバスタブは割れて棘のようにストレンジに突き刺さる。

 俺はすぐさまシャープネスナイフに切り替え思いっきり投げつける。

 ナイフはストレンジを貫通して壁に突き刺さる。


 「死んだか?」


 しかしストレンジは痛がる素振りも見せず大きな鎌を振りかざす。

 天井を切り裂きながら俺の胴体を真っ二つにしようってわけか。

 俺はマチェットナイフで鎌を防御する。

 相手の鎌のほうが力強い。

 このままでは死ぬ。

 なので少し本気を出すことにした。

 俺はダークマターを心臓に流す。

 心臓の鼓動は早くなり俺の全身に血が高速で巡る。

 勝負は一瞬でついた。

 俺は常人ではありえないほどの運動能力を発揮して音の速さで移動しマチェットナイフで大型ストレンジを真っ二つに切り裂いたのだ。

 ストレンジの死体はソニックブームによりあたりに飛び散り屋敷の二階を破壊した。

 俺はナイフをコートにしまう。

 すると喉から血が溢れてきた。

 俺は咳き込み血を吐く。

 しばらく俺は喉の奥からこみ上げる血を吐き続けていた。

 これが能力の代償だった。

 心臓の動きを早くして思考を加速し運動能力を爆発的に底上げする。

 これで殺せないストレンジはほぼいなかった。


 「そろそろ俺も賞味期限切れかな」


 俺は体をゆっくりと起こした。

 すると下の階から声がした。


 「おいおい、勘弁してくれ」


 俺は次なる敵を予測して警戒しながら下の階に降りていく。


 

 

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