第82話 幼女無双 3


「嬢ちゃん。もう気は済んだか?」

ゴリマッチョ部長は、渋い顔でエンリに近づき、ゆっくりと語りかける。


表情には出すまいと頑張ってはいるモノの、部長のゴツイ顔には「もう帰ろう! すぐ帰ろう! ちゃっちゃっと帰ろう!」と云う文字が、クッキリと浮かび、踊っていた。


「まだなのじゃ! 教祖様とか云われておった、チャラい兄ちゃんが残っておるのじゃ」

「はぁ、教祖だと!?」


エンリの発言を受け、ゴリマッチョ部長の表情が、一変して険しくなる。

いや、険しさを通り越して、憤怒の形相へと変わった。


『まさか、奴が此処にいるのか?!』


「ああ、それと一緒に連れてこられた子供達じゃが、この下の格納庫にある船の中におるぞい。今は<<ラクネ二式>>が、子守をしておるのじゃ」

「なんだと!」


エンリからもたらされた新たな情報により、現場の空気が一変した。


C班チャーリーは連れて来られた子供達の安全を確保しろ。可能であれば、そのまま船を鹵獲して、ここから離脱だ。あと、子供達の側には、巨大な蜘蛛型の生物がいると思うが、そいつは……」


「彼女の<<使い魔>>か<<召喚獣>>。じゃなければ<<式神>>ですね、わかります♪ 良し、突入準備だ!」


理解の早い隊員が居ると、説明が短くて助かる。

エンリに関する事案は、魔法と云う未知の存在を、いかに相手に理解させるのかが、最も大変なのだ。


その点、自衛隊と云う組織は、比較的 早期に『魔法』を理解する者が多く、『対魔導戦』への対応が効いた。


何故だかは解らないが、自衛隊と云う組織に置いては、『魔法』と云う未知の力を柔軟に受け入れる<<下地>>が、既に出来上がっているのだ。


事実、<<習志野の悲劇>>においても、友軍の損害規模を最小限度に留めた立役者は、魔法をありのまま受け入れ、柔軟に対応した、末端の兵士による功績であったと、ゴリマッチョ部長は聞き及んでいる。


ちなみに「魔法幼女キタコレ!」と叫びながら撤退を指揮した英雄の逸話は、今も勇者として語り継がれている程だ。


ともかく、自国民の生命と財産を守る事は、自衛隊員の本懐とする所。

理不尽に拉致された自国の子供達を、敵の手から奪還するのに「否」を唱える馬鹿は、此処には一人だっていない。


「突入開始ぃ!」

矢継ぎ早な部隊長の指示を受け、3個分隊の1つが意気揚々と船体下層へと突入して行く。


彼らは命を懸けて、己の果たすべき本分を全うする事だろう。



「……で、肝心のラスボスは何処にいるのかなぁ? 嬢ちゃん」


船内に突入して行った部隊の後ろ背中を見送った後、ゴリマッチョ部長は、般若も裸足で逃げ出す笑顔で、エンリに教祖の居所を尋ねた。


正直、ここまで怒りを顕わにした部長の姿を、小鳥遊クンは これまで見た事が無かった。


「奴なら、ほれ、そこじゃよ」


エンリは、貨客船の艦橋を素直に指差す。

その操舵室に、彼の姿はあった。


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