第81話 幼女無双 2


「陸佐殿。周辺の制圧は完了しました」

状況報告の為、部隊長がゴリマッチョ部長の元へと駆けつける。


九死に一生を得た部長は、ひとまず大きな安堵の溜息をいて、己の生を噛みしめた。


そしてエンリは……

小鳥遊クンによって、甲板に正座させられていた。


最新鋭の装備で武装した陸自の一個師団が、束になっても敵わない化け物相手に、何ら臆する事無く、説教を垂れる、ぱっと見、単なる、冴えない おっさんが一人ひとり


強靭な精神を持った屈強な精鋭部隊の自衛隊員でも、顔を青ざめ、恐れおののく様な光景が、そこには展開されていた。


小鳥遊クンは、仁王立ちになって、エンリに正座を強制し、お説教の真っ最中。


「陸佐殿ぉぉ……」


「止めさせましょうよ」と、震えながら涙目で訴える部隊長に対し、何とも云えない困惑の視線を向けるしかないゴリマッチョ部長。


彼らの目には、小鳥遊クンが地雷源の上で、タップダンスを踊っている様にしか、見えていなかった。


恐れ知らずと云われた精鋭部隊の隊員達が、じりじりと後退しながら、距離を取り始める。


いつでもエンリから逃げ出せる様に……


「すごく心配したんだからねっ! まったく『知らない おじさんに付いて行ってはダメ』だって、いつも云っているでしょ!」

「いや、まじスマンかったのじゃ」


硝煙と爆炎で煤けた この地獄絵図の中、「えっ!? 怒るポイントはソコなの?」と、心の中で総ツッコミを入れる精鋭部隊の隊員達。


もっと、ほら、あるでしょ?

倫理と云うか、道徳的な問題が……


「わかれば良し!」

「やったーなのじゃ!」

『ええええっ!!』


隊員達は、二人の会話に何処か釈然としないモノを感じつつも、無事に小鳥遊クンの説教が終了した事で、ようやく生きた心地を味わう事ができ、ホッとする。


比較的戦歴の浅い隊員の中には、その場に腰を抜かして座り込む者までいる始末だ。


そんな中、ゴリマッチョ部長だけは、小鳥遊クンの行動に、別の見方を示していた。


もし戦場の真ん中で、銃火器を手に襲ってくる連中と相対し、それでも『無抵抗主義』や『博愛主義』を説くのであれば、それは理に合わない所業と云える。


そう云う類の説教ならば、エンリは、おそらく一切 耳を貸さなかっただろう。


しかし同時に、これは不問に付して良い類の問題でもない。

この状況が、エンリの行動によって巻き起こった側面を、否定できないからだ。


ここでエンリの行動を抑制しておかなければ、後々の禍根となる事は、間違いの無い事だ。


子育てにおいては、叱る時に、然るべき理由で、きちんと叱らなければならない。


先程の小鳥遊クンの説教は、エンリの反発を最小限に留めつつ、なおかつ釘を刺しておくと云う点に置いて、非常に理に適った行動と評価せざるを得ない。


『もっとも小鳥遊クンは、ソレを無意識に行っている様なのだがな……』


やはり小鳥遊クンの感覚は、何処かズレている。

高位の聖職者の様に達観しているかと思えば、ひどく庶民的な矮小さも垣間見える。


人としての境界線が曖昧と云うか、深く付き合う程に、訳が分からなくなる存在だ。

つまり、これからも監視の目を緩める事は出来なさそうだ。


ゴリマッチョ部長は肩を落として嘆息した。

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