第91話 世は全て事も無し 1


『昨夜から都内で突如始まった交通規制と検問は、敵対国の潜入工作員による爆弾テロを、未然に防ぐ為のものであった事が、先ほど官房長官より発表されました』


『都内数か所で発生した爆発事件と発砲事件は、これに関連するもので……』


『また、総理大臣は此度の責任を取るとして、内閣総辞職の意向を示しており……』


『最新の世論調査によると、今回の首相の英断に対し、内閣支持率は全ての世代で急上昇……』


『首都港湾内で沈没した貨客船の入港に関連し、制裁解除に主導的役割を果たした、野党第一党の……』


『世界の平和は、私たち国連魔法少女部隊が守って見せるわ! 覚悟しなさい、このテロリスト共め! PKOに代わって、平和維持よ♪』


朝から各テレビ局は、アニメ放映をしていたチャンネル1つを覗いて、どこもかしこも、テロ関連の話題で持ち切りであった。

小鳥遊クンは うんざりした様子で、テレビのスイッチを切ると、手に持っていたリモコンをソファーへと放り投げる。


「はぁ……しんどぃ……」


結論から云ってしまえば、核爆弾の処理は、無事に終わった。


エンリによって強化魔法を付与された貨物室には、核爆発後の調査でも、損傷は一切 認められず、懸念された放射性物質の流出も、確認されなかった。


後は、魔法力が消えない内に、貨物室を船体より切り離し、サルベージして、石棺にでも入れてしまえば、お仕舞いだ。


また、爆発時に発生したと見られる放射線も、海水の分厚い壁に阻まれ、周辺に影響を及ぼす事は無かった。


一応、中性子放出の余波で、重水素が大量に生成されたのだが、直ぐに大海へと拡散され、濃度的には問題ないレベルにまで落ち着いているらしい。


そして今回の騒動の中心たるエンリは……


「腹減ったのじゃ~、小鳥遊クン。何か美味いモノを所望なのじゃ」


只今 絶賛、食卓に陣取り、遅めの朝食を腹を空かせた雛鳥の様に要求中である。


「なんだかなぁ……」


いつもと変わらぬ日常の風景。

とてもじゃないが、つい先ほどまで、死と隣り合わせの綱渡りを繰り広げていたとは思えない。


未だ夢見心地のまま、すべて終わったのだと、実感できない自分がいる。

ただ、呑気なエンリの顔を見ていると、思わず安堵の笑いが込み上げてきた。


「のぁぁ! 小鳥遊クン。限界じゃ。飯を早よう持ってくるのじゃ」

「あ~、はい、はい」


今日の朝食は、天然酵母を使った自家製ふかふかパンに、特製ソースをタップリかけた燻製肉。それと生野菜に、これまた自家製のザワークラウトとピクルスを挟んだ、小鳥遊クン特性のスペシャルサンドである。


味は申し分なし。

エンリも、きっと満足する事だろう。

最後に、ミルクとコーンポタージュを添えれば完成だ。


トレイに綺麗に並べられた二人分の朝食を眺め、小鳥遊クンは満足気に頷いた。


「お待たせぇ~、エンリ」

「おおっ、待っておったのじゃ!」


皿に盛られた豪勢な朝食に、エンリは やんややんやと喝采を送った。

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