第90話 因果応報


「はぁはぁはぁ……」


半潜水艇内の人目につかない隙間にもぐり込み、ひっそりと隠れひそんでいたおかげで、貨客船から無事に脱出できた優男は、警備の隙を突いて、港からも逃げ出す事に成功していた。


そして今は、港近くのNPO法人の所有する隠れ家に、身を潜めている状態だった。


ガチャガチャ


誰かが扉を開けようとする音が響く。

優男が息を潜めて外を確認すると、そこには薄汚れた会頭の姿があった。


「会頭! 無事だったんですね」


優男は急いで隠れ家の扉を開けて、会頭を部屋へと招き入れる。

一人、心細い思いをしていた所に現れた、頼もしい援軍だった。

優男の顔に希望の生気が蘇る。


だが会頭は、そんな優男をまるで無視して、部屋の中をキョロキョロと見渡すと、不気味な声で呟いた。


「……どこでふ?」

「え?」


深い絶望の瞳で優男を見つめながら、会頭は再度、不気味に尋ねる。


「僕ちんの、可愛い お嫁さん達を……何処に、隠したのでふ?」


会頭は持っていた『お守り』を優男に突き付けると、カチャリと引き金に指を掛けた。


「僕ちんの! 嫁はっ! 何処ふかぁぁぁ!」


会頭の狂気に彩られた怒声が、部屋中に木霊する。

ハーレム願望を拗らせた男は、目の前の優男が、自分のお気に入りの幼女を連れ去った事に、心の底から激怒していた。


同時に、自分達が目の前の男に捨て駒にされた事を、きっちりと理解していたのだ。


「まっ! 待て! 話せば、わ……」


パァン


乾いた銃声が、閑静な朝の住宅街に響き渡る。

数分後、辺りは、複数のパトカーのサイレン音と報道陣によって、騒然となるのであった。

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