第87話 伝家の宝刀 4
よもやの事態である。
エンリ渾身の、かわい子ぶりっ子も不発に終わる。
やらかした教祖の方は、まさに「カッとなって核爆弾の起爆スイッチを押した。今は反省している」状態。
青ざめた顔で「どうしよう……押しちゃった」と、茫然自失の状態で、アンテナマストに力無く脱力し、ぶら下がっていた。
「どうすんだよ……コレ」と云う空気が、辺りに重苦しく立ち込める。
「小鳥遊クン、安心せい。起爆までには、まだ間があるのじゃ」
「……へっ?!」
現場に絶望を
エンリは、『英知の書庫』を介して教祖の深層心理にアクセスすると、手早く必要な情報を収集し、事態を打開する有益なネタを手に入れた。
「やはり奴は、生き汚いのぅ。爆弾を起動させた後、自分が安全圏に逃げられるだけの時間を、ちゃっかり確保しておったのじゃ」
持ち込まれた核爆弾は、時限起爆式。
起爆命令から爆発までの時間は、2時間近くある。
「なら急いで起爆装置を解体しましょう!」
「駄目だ。爆弾の周りは、高濃度の放射線で汚染されている。近寄るだけで、あの世行きだ」
ゴリマッチョ部長は、沈鬱な表情で小鳥遊クンの案を否定する。
「要は爆発の力が外に漏れねば良いのじゃろ? なら、この船を魔法で強化……正確には、分子配列をマナの力で、固定させれば良いのじゃ」
エンリの云う物質強化の付与魔法は、理論上、単分子装甲と同質の性能を発揮する事が可能だ。
対象物の分子構造を、マナの力で完全に固定化する為、魔法発動中は、魔法力以外の外部干渉を、一切 受け付けなくなる。
「なるほど。核爆弾が設置されている貨物室全体を、防爆室とする訳か!」
実際の爆弾処理でも、解体困難な爆弾は、防爆性の高い箱に入れて、爆発処理させる事が普通である。
それを核爆弾でやろうとする発想には、正直 冷や汗を禁じ得ないが、絶対に壊れない箱を魔法で作り出す事が可能だと云うなら、確かに有効な手法と思われた。
「待ってください! 確かに、それで爆風や放射性物質の飛散は、防ぐ事が出来ます。しかし『粒子放射線』や『電磁波』の拡散は、どうするのですか!?」
いくら頑丈な箱の中に入れた所で、原子崩壊と共に発生する粒子放射線と電磁波は、防ぐ事が出来ない。
分子の隙間を潜り抜けて、外へと漏れ出てしまう。
そうなれば、粒子放射線による遺伝子損傷だけで被害は収まらない。
首都近郊で強力な電磁パルスが照射されてしまえば、一般の電子機器は軒並みダウンし、首都機能は完全に停止してしまうだろう。
「めんどいのじゃ。いっその事、海にでも沈めてしまうかのぅ……」
「「それだ!!」」
投げやりなエンリの提案に、全員が頷いた。
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