第86話 伝家の宝刀 3


「まいったな……まさか核とは」

これでは、どうにも手が出せない。どうすれば……


硬直した事態に有効な打開策が見つからず、沈黙が辺りを支配する。

重苦しい雰囲気が漂い始め……


「飽きたのじゃ」

「ふぇ!?」


それは一瞬の出来事だった。


暇を持て余していた幼女様が、ぼそりと呟くと同時に、凄まじい爆音が甲板上に轟き渡る。

次の瞬間には、艦橋デッキにいたはずの教祖様が爆風に煽られ、遥か上空へと舞い上がった。


「ぐうわぁぁぁ!!…………げぇっ」


爆風で吹き飛ばされた教祖様は、まるで見えない蜘蛛の糸に絡まったかの様に、そのまま艦橋上部のアンテナマスト付近に縫い止められた。


じたばたともがく教祖様を、小鳥遊クン達は、ポカーンとした表情で見つめる。


ふと横を見遣ると、退屈を拗らせて我慢の利かなくなったエンリが、教祖様に対してとどめを刺さんとばかりに、魔法陣の展開を始めていた。


「大気に眠るマナよ……」

「ちょ、待って待って待って!」


慌てて詠唱を止めに入る小鳥遊クンとゴリマッチョ部長。


「何をするのじゃ! 小鳥遊クン」

「核だよ! 核。相手は核を持っているんだから! らめぇ~」

「……核ぅ? なんなんじゃそれは?」


なんとっ、この お子様は、核兵器の恐ろしさを、まったくもって理解していなかった。

だが相手は6歳児。考えてもみれば当然の事か……


「えっと、原子が崩壊する時に発生する莫大なエネルギーを、そのまま破壊力に転用する兵器。爆発と同時に、人体に有害な毒を大量に撒き散らす厄介な存在!」


慌てているので、小鳥遊クンの説明は、おざなりである。


「ああ、似た様なのは、錬金術で見た事あるのじゃ。わかった、わかったから、離すのじゃ~」

「わかったなら、詠唱をめてぇ~! お願いだからぁ!」


良い年した大人が、幼女に縋りついて泣き喚く。

外から見れは酷い光景である。


「ええぃ、安心せい。小鳥遊クン、奴は そう簡単に『核』とやらは使わんのじゃ」


エンリは、小鳥遊クンに向かって、そう きっぱりと断言した。


「部長も云っておったろう? 奴は相当、生き汚い輩なのじゃ。目がある内は、絶対に相対死あいたいじになんぞ、選ばんのじゃ」


もっとも、こんな事は、推測するまでもない。

『英知の書庫』がエンリの手元にある以上、相手の深層心理を覗き見れば事足りる。

エンリは100%の確信を持って答えた。


「ちくしょう!! 訳わかんねぇ! 何なんだよ! こうなったら全員まとめて、死んじまえ! クソがっ!」


……カチャ


「「「あっ!」」」


予想外の事態が起こった。

自棄やけになった教祖様が、理性をかなぐり捨てて、手元のスイッチを押しこんだのだ。


「……」

「………」


何とも云えない沈黙が、辺りを支配する。

皆が皆、無言でエンリへと視線を向けた。


「…………てへぺろ、なのじゃ」

「「「ふざけんなぁぁぁぁぁ!!」」」

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