第72話 反撃の狼煙 4


「えっとでふね……二級品と云うのはでふね……」


もし、ここで会頭が対応を誤れば、彼らはぐにでも、会頭を児童虐待者として認定し、容赦の無い糾弾を開始する事だろう。


『そんな事になったら、<<チー・サンエラ・クォン>>への道が閉ざされてしまう!』


なんとしてでも、この場を切り抜けて、自らが選りすぐった お気に入りの少女達と一緒に、<<船>>へと辿り着くのだ。


そうでなくては、これまで、頭のイカれた連中を、おだて、あおり、引き連れて、一所懸命に努力してきた、意味がなくなってしまう。


何か良い手は無いか?

無いか?

無いか?


「……あっ! そうなんでふ。実はっ」


会頭が気持ちを立て直し、その場を取り繕おうと口を開いた、その時だった。。


パパパッパン


強烈な破裂音と閃光が、アパートの地下駐車場を包み込んだ。


「うわぁ!」

「ゲホゲホ……何なの?」


濛々と立ち昇る白煙が、スタッフ達の視界を「あっ!」と云う間に塞いだ。


「動くな! 貴様らには未成年者略取に加え、都内での爆弾テロの嫌疑が掛かっている! 大人しくしろ!」


耳をつんざく拡声器越しの警告と共に、完全武装の警察官が、大挙して地下駐車場に雪崩込んで来た。


混乱する状況の中、会頭は最も信頼する側近とも云うべき、優男の姿を探す。

彼にはNPO法人発足当初から、資金面や人材育成面で、常に頼りっぱなしの状況が続いている。


困った時には、彼を頼れば良い。

彼なら何とかしてくれる。


そんな淡い期待を込めながら、会頭は、警察の突然の介入で大混乱する現場を、必死になって逃げ回る。


「た……助けて……でふ」


だが会頭は、焦りのあまり、未だ気が付かない。

彼が最も頼りにしている優男が、姿事に……


「拉致されたと思われる子供達を確保!!」

「急いで安全な場所に移せ! 大至急だ!!」


突入してきた警察官の声が、視界の悪い地下駐車場に響き渡る。


「何処でふ? 何処にいるでふか!?」

会頭は必死で優男の姿を探した。


そして、気付く。

優男だけでなく、先ほど彼が必死になって保護してきた幼女の姿も、いつの間にか見当たらなくなっている事に……


「そこのヒョロい男! 止まれ!」

目の前に、武装した警察官が立ち塞がった。


会頭は焦る。


どうすれば良い?

どうすれば良い?

どうすれば良い?


混乱した頭で、会頭は懐に隠し持った『お守り』を、ぎゅっと握りしめた。

喫茶店の駐車場の片隅で、会頭が偶然 拾った、大切な大切な『お守り』……


それは、『赤星』と呼ばれるマカロフ型拳銃。

その昔、ガウス真理教が日本国内で密造し、裏社会に大量に ばら撒いた名品。

国内の銃犯罪における使用率、ならびに押収率のトップを今でも独走している一品だった。



パァン



一発の乾いた銃声が、地下駐車場内に木霊した。

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