第70話 反撃の狼煙 2


「防衛庁情報本部より映像解析出ました! 先ほど使われたブビートラップは、やはり某国の特殊部隊が使用するタイプのモノと同一と思われます!」


「外務省国際情報局より返信! 報告にあった<<チー・サンエラ・クォン>>と云う単語は、某国内で急速に台頭してきている新興宗教団体が、信者獲得の為のプロパガンダに使用する『この世の理想郷』を意味する造語であるとの事です」


「運輸省港湾局より入電! 現在、日本国内に存在する某国船籍の<<船>>は一隻のみ。只今、首都港湾内で錨泊中!」


捜査のスピードは、大規模な動員によって、飛躍的に向上した。

テロ対策と云う名目を得たおかげで、関係各所からの情報収集が格段に容易くなった。


司令部は、くだんのNPO法人を、着々と追い詰めつつある。


だが同時に、今回の騒動の陰には、『ある不穏な存在』が見え隠れしている事もまた、浮き彫りにされつつあった。


縦割り行政の枠を越え、多角的に情報が集約・分析されたが故に、浮かび上がった真実。


『……やはり、そうなのか?』

その事実に気付いた関係者の額からは、一様に嫌な汗が流れ落ちた。


<<某国の関与……>>


ゴリマッチョ部長が危惧した可能性が、ここに来て、にわかに現実味を帯びてきたのだ。


『もし仮に、アルカナ・ワンの身柄が、あのテロ国家へと渡る様な事になれば……』


誰もが、その危険性に辿り着き、そして誰もが、戦慄と共に、危惧をし始める。

何とも云えない重苦しい雰囲気が、前進指揮所A C P内に、立ち込めつつあった。


「新たな報告、入りました!」

そんな陰鬱とした状況の中、ある1つの光明が、司令部へともたらされた。


「現在、NPO法人が所有する特殊車両が一台、所在不明になっているそうです」


それは、これまで水も漏らさぬ隠密行動をとっていたNPO法人、その唯一の綻び。


「了解しました。すぐに車両捜査支援Nシステムシステムにて、照会を行います」


NPO法人会頭の、浅慮な行動が穿った、大きな、大きな穴であった。


「照会結果、出します」


スタッフが固唾を飲んで見守る中、車両捜査支援Nシステムの追跡記録が、正面モニターに映し出された。


「おおっ!」

前進指揮所A C P内に、どよめきが巻き起こった。


「現在、車両は、湾岸新興住宅地の区画内にあると思われます。なお、当該車両が通過した経路上に、拉致現場の近傍が含まれているのを確認!」


車両捜査支援Nシステムの通行記録によると、この特殊車両は、アルカナ・ワンが拉致されてから約3時間後に、現場から半径10キロ圏内にある商業地区を通過。

そのまま湾岸新興住宅地方面へと向かっていた。


「おいおい。この交通規制の中で、ありえん速さで移動しているな」


NPO法人が所有する特殊車両は、民間救急車として登録された車体である。

この渋滞の中でも、比較的優先的に、通行が可能だったと推測された。


「湾岸新興住宅地に設置している監視カメラの記録から、当該車両の映像が出ました。時刻は……約1時間前です」


「了解。直ちに居場所ヤサの絞り込みを始めます!」


もたらされた情報に、誰かが思わず「ビンゴ!」と叫ぶ。

そして、前進指揮所A C Pに、大きな歓声が巻き起こった。


「行くぞ! 小鳥遊クン」

「はい! 部長」


そんな中、ゴリマッチョ部長と小鳥遊クンは、真剣な面持ちで、前進指揮所A C Pを後にする。


理由は明白。


とにかく一秒でも早く、エンリの元へと駆けつける。

ただ、それだけの為に……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る