第69話 反撃の狼煙 1

ズヅゥン

深夜のオフィスビル街に、突如 爆音が響き渡る。


炎に包まれたのは、<<児童虐待から子供達を守る活動を推進するNPO法人>>が居を構える雑居ビルの1フロア。


数分前に突入を敢行した、警視庁特殊急襲部隊の隊員10名との無線連絡が、プツリと途切れた。


「あいつら、やりやがった! 畜生!!」

前進指揮所A C P内に、オペレーター達の悲痛な怒声が響き渡る。


「おい。非番の刑事デカばっ、全員 叩っぉこせ!!」


危機管理センターC M Cで、突入の様子を見守っていた警視総監は、すぐさま受話器を手に取ると、ヤクザ顔負けの迫力で、都内の全署員に対し、号令を発した。


「手隙の刑事デカばっ、全て こっちさ回せ。夜明け前までに、痴れもんの根ばぁ、絶っと!」


身内を害されて半ギレ状態の警察官達は、この警視総監の檄に対し、即座に呼応する。


「関係各員に告ぐ。手段は問わん。草の根分けてでも、連中の居場所を突き止めろ!」


当初は、令状無しの強制捜査に極めて消極的だった警察関係者だったが、これを境に雰囲気が、ガラリと変わった。


「この際だ。都内で展開させている大規模な交通封鎖は、テロ対策の一環だと偽って、公表しろ。それに併せ、テロ実行犯が、未成年者を人質に、都内を逃走していると発表する。その上で、人質の救出、新たなテロ行為の阻止、そして人命優先を盾に、関係各所から優先的に、人員と情報を提供させるんだ!」


司令部の機転により、公然的にアルカナ・ワンの所在を捜査できる下地が、瞬く間に整えられた。


「人質に関する情報は、欺瞞情報を交えつつ、可能な限り、ぼかせ! 本人確認は、こちらが直接 行う。現場の人間には、人質は『幼い子供』とだけ、伝われば良い!」


「良いか? 我々が探しているのは、アルカナ・ワンと云う個人ではなく、危険なテロ組織と、そのテロ組織に囚われた人質だ。そう思われるよう、慎重に情報を流せ!」


極論すれば、人質にされた子供の名前も、性別も、人数も、不明で構わない。

人質に関する情報の大半を伏せた状態でも、現場の人間を意欲的に動かすに足るだけの『動機』は、充分に確保できるのだから。


司令部は、アルカナ・ワン確保と云う、自身の本音を巧みに隠しながら、せっせと現場を焚き付けるのであった。


大変だ!

無辜の民が、テロの脅威に曝されているぞ!

人質にされた幼気いたいけな幼子が、命の危機に怯えている!


さぁ、探せ!

すぐ、探せ!


今こそ、我らの正義を示す時だ。


時刻は、エンリ失踪から既に、8時間が過ぎようとしていた。

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