第68話 彼女の思惑 3
「まぁ、所詮は『魅了』の状態異常持ちと云う事じゃな」
結局、このヒョロい男も、あのイケメンエリートと同じく、何処かの誰かに操られた、人形でしかないと云う事だ。
仮に、このヒョロ男に、エンリの望む『集合的無意識にアクセスできる媒体としての資質』があったとしても、アクセスの起点となる顕在意識が こうも汚染されていては、どうやったって不良品でしかない。
経験値として見ても、こんな『札付き』では、旨味など皆無だった。
「それよりも、じゃ……」
ヒョロ男に対し、早々に見切りを付けたエンリは、すっぱりと意識を切り替える事にした。
次に考えるべきは、「いったい誰が、彼を『魅了』したのか?」と云う事である。
おそらくは、この一連の騒動には、裏で糸引く存在がいる。
ヒョロ男を始め、数多の人間の精神を狂わし、己の意のままに その心理を操る輩が……
その者であれば、ひょっとすると『英知の書庫』足る資質を、持っているかも知れないと、エンリは考えた。
「とにかく、さっさと予備の書庫を見つけ出さねば、魔道の探求もままならぬのじゃ」
そうなのだ。
今、エンリの手元にある『英知の書庫』は、もはや貴重過ぎて、迂闊に使う事が出来ないシロモノとなってしまった。
しかし、この異世界のマナを掌握する為には、『英知の書庫』は必須のアイテムである。
例えソレが、使い潰しが前提の、劣化品・粗悪品であろうとも、予備となる『英知の書庫』の存在は、是非とも手に入れておきたかった。
『まぁ、簡単に見つかるならば、苦労など無いのじゃがのぅ……』
エンリは憂い顔で溜息を
それだけ、素材の希少性は高いのだ。
そんな彼女の可憐な姿を
「おおっ、君はっ! マイ・フゥイート・エンジェルでは、ないでふかぁぁ!」
呑気なモノである。
彼の脳裏には、ゴリマッチョ部長を従えて、稲妻で不良共をなぎ倒しながら突き進む、エンリの雄姿は記憶されていない。
あるのは、マッチョな大人に追いかけられ、必死な姿で逃げまどう、可憐な幼女の姿だけだった。
そんな彼女が、
『そうだ、しっかりせねばっ!』
ヒョロ男は、その場から やおら立ち上がると、幼女の肩をガシっと掴んで叫んだ。
「大丈夫でふ! 僕ちんが、必ず、あいつ等から、君を、助け出して、あげるでふ! 安心して、欲しいでふ!」
「なっ!?」
ヒョロ男の言葉に、幼女は、一瞬 戸惑った様な仕草を見せたものの、次の瞬間には、怪しげな光を瞳に湛え、躊躇う様に おずおずと、しかし、とても可愛らしく、言葉を紡いだ。
「でも、おじちゃん。行く宛は……あるの?」
うひょー! かわぇぇ! オーゥライッ!!
ヒョロ男は、舞い上がりそうな歓喜を無理矢理抑え込み、努めて冷静な態度で、幼女に答えた。
「心配ないでふ。すぐに<<あの御方>>が、この国に迎えに来るでふ。お兄ちゃんと一緒に、<<船>>にさえ乗り込んでしまえば、<<あの御方>>が、約束の地へと連れて行ってくれるでふ。僕ちんに任せるでふ!」
その言葉を聞いて、少女は「にやり」と微笑んだ。
そして……
「きゃああ、つかまってしもうたのじゃ。あ~れ~なのじゃ」
小鳥遊クンが、ヒョロ男によって羽交い絞めにされた、エンリの姿に気付くのは、この後すぐの事であった。
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