第67話 彼女の思惑 2


「相手は落雷によって混乱しています。中央突貫! 両翼を分断しなさい!」

「了解!」

「はっ!」


部長とエンリが立ち止まっている隙に、厨房の おっさん連中が、両脇より進み出た。

彼らは、後方に控える初老のウェイターの的確な指揮に従い、目の前の不良集団へと、次々に切り込んでいく。


「てめぇら、コレが目に入らないのかよぉ!」


突貫してくるおっさん連中に向け、焦った不良共の1人が、虎の子の密造拳銃を取り出した。

だが、初老のウェイターは、驚きもせず、腰のホルスターからサイレンサー付きの拳銃を、すらりと取り出すと、密造拳銃を持った暴漢の手首目掛け、正確無比に狙い撃つ。


パシュ!


弾き飛ばされた密造拳銃が、カランカランと駐車場の隅へと転がった。


「たたたっ、退却だぁぁ!!」

「ひぃぃぃ」


いくら武闘派揃いとは云え、相手は所詮、烏合の衆である。

本職を相手にするには、脆過ぎた。


戦闘開始 早々、主戦力の二割を ごっそり削られた不良集団は、完全に戦意を喪失し、そのままえ無く逃走を始めた。


地面に倒れた仲間を見捨て、手に持った武器を放り出し、脱兎の如く、彼らは駐車場の出口へと向かって殺到する。


「いやぁん、あん、らめぇ~。逃がさないわよぉ~」


だが其処には、ズキューンと艶めかしいポーズで、喫茶店のマスターが立ち塞がっていた。

不良共に逃げ場は無い。


「うぎゃー!!」

「た、たすけ……あーーーっ!」


文字通りの鉄壁。

文字通りの蹂躙。


オカマは……その……すごかった。


瞬く間に、喫茶店のマスターの周囲には、半裸ないしは、全裸の不良達が、嗚咽に塗れ横たわる、何とも凄まじい光景が展開された。


なお、喫茶店のマスターが、不良共を ひんむいたのは、相手から効率的に戦意を奪い、かつ逃亡を防止する為であり、決して己の欲望によるものではない……たぶんmaybe




「よし、投降した者から順に拘束していけ。面倒だが、ちゃっちゃと終わらせるぞ」

「はい。陸佐殿!」

「いや いや いや、俺には、無理っ! 無理ですからぁ!」


夕日も沈み、夜の帳が辺りを支配し始める。

不良達の組織的抵抗は鳴りを潜め、事態は残存勢力の掃討と、拘束へと移行していった。

散発的な抵抗を見せる不良達を黙らせながら、作業は淡々と進められる。


正直、手が足りないので、嫌がる小鳥遊クンも無理矢理 動員し、ゴリマッチョ部長は、不良達を次々と お縄にしていった。


「なっ!? 何なんでふか? こんな事ありえないでふ!」


そんな中、辺りを探索していたエンリは、駐車場の片隅で、理不尽な暴力を前にして、腰を抜かして狼狽する、ヒョロい風体の男を見つけ出した。


「なんじゃ、やはりカスじゃったか……」


エンリは、心底がっかりした様子で、を、ヒョロ男に対し投げかける。


「こ奴なら、せめて資質の欠片くらいはあると思ったのじゃがのぅ……」

エンリは呟く。


相手は、曲がりなりにも『煽動アジテーション』のスキル持ち。

傍目からは この不良集団の、『影の首魁』っぽい感じの相手だっただけに、失望感は半端なかった。

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