第66話 彼女の思惑 1

夕暮れ刻、喫茶店周辺に集まった不良集団は、総勢67名を数えた。

それぞれが、釘バット、木刀、火炎瓶。それに何処から調達したのか、密造拳銃や日本刀などの凶悪な武器で、武装している。


「ヒャッハー! てめぇら無事に帰れると思うなよ」

「のじゃー」


そんな武装集団の中に、連日の徹夜でハイになったゴリマッチョ部長と、凶悪な笑みを浮かべたエンリが、その身一つで躍り出た。


「急げ! 陸佐殿を援護しろ!」


追随するのは、喫茶店のマスターと初老のウェイター。それに調理師が2名……

彼らは、目の前の不良集団相手に、恐れる事なく突撃を敢行した。


「大気に眠るマナよ……」


口火を切って集団の先頭に飛び出してきた幼女が、何かを呟く。

すると、突如 雲一つない夕焼け空から、無数の雷光が降り注いだ。


「ぐぎゃ!」


真っ先に犠牲となったのは、釘バットや日本刀と云った、金属製の武器を高々と掲げ、悦に入っていた阿呆共の群れ。


「へばぁ!」


そして時間差で、鼻ピアスやネックレスなどの装飾品を、ジャラジャラと身に纏った若者達が、焦げ臭い匂いを発しながら、ピクピクと地面に倒れ伏す。


「さぁ、疾く逝くが良いのじゃ!」

「嬢ちゃん!! 『人死ひとじに』出しちまうと、後で お人好しの小鳥遊クンが、泣いて悲しむぜっ」


エンリが倒れ伏した不良共に、情け容赦なく止めを刺そうとした瞬間。

彼女の背後から、ゴリマッチョ部長の野太い声が届く。


その声に、エンリの動きが、ピタリと止まった。


「おぅ、それは鬱陶しいのぅ。……まぁ、そこら辺の雑魚の経験値なら、無くても『可』なのじゃ。……うん」


部長は、信じられない思いで、その光景をの当たりにする。


「おいおい、やっぱマジなのかよ……」


ここに来て、半信半疑だった思いが、ようやく確信へと変わった。


駄目モトで頼んだ放火犯の引き渡し要求に、エンリが素直に応じた事と云い、少し前から その兆候は、薄々と感じてはいたのだが……


『嬢ちゃんに、こちらの世界の常識や価値観が備わりつつある?!』


いや、それは、まだ微々たるモノなのかも知れない。

だが小鳥遊クンとの絆が、それを確実に育てつつある……ように思えた。


それが確認できただけでも、今回の『ガス抜き』は、大成功と思えた。


後は、適度に魔法力を消費して貰って、美味いモノでも食わしておけば、暫くは大人しくしてくれるに違いない。


ゴリマッチョ部長は、悪魔の様な顔つきで、にんまりと、ほくそ笑んだ。


あっちは、適度な運動でストレスを発散でき、こっちは、煩わしい相手の末端組織を、お手軽に潰せて、貴重な生き証人も得る。

いや、まったく。双方、万々歳の妙案と思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る