第65話 焦燥の刻 3

そうなのだ。

今回、小鳥遊クン達に工作を仕掛けてきた相手が、ガウス真理教と同じ、某国の息の掛かった組織だと知って、ゴリマッチョ部長は、つい出来心で、エンリをけしかけてしまった。

彼女の力を利用して、「手っ取り早く相手を潰してしまおう」と、愚かにも考えてしまった。


『馬鹿だ……自分の個人的な遺恨を晴らす為に、部下の養女むすめを、良い様に利用しようとしていただなんて……』


どんな理由があったとしても、そんな事は絶対に、やるべきではなかった。


ゴリマッチョ部長とて、可愛い我が子を持つただの親。

小鳥遊クンの悲痛な思いは、痛いほど理解できる。


『本当に、申し訳の無い事をしてしまった』


小鳥遊クンは、今、攫われた養女むすめの安否が、心配で 心配で、仕方のない事だろう。


「…………んっ?」


そこでふと、ゴリマッチョ部長の胸裏に疑問が生じた。


「ところで、小鳥遊クンは、嬢ちゃんがそう簡単に誘拐犯に害されるタマだと、本気で思っているのか?」

「いえ、全然」


部長の問い掛けに対し、あっけらかんとした態度で、小鳥遊クンは答えた。

おい!


「なら、何故そんな悲痛な態度で、嬢ちゃんを心配なんぞしてるんだ?」

小鳥遊クンには悪いとは思ったが、それは純粋に疑問だった。


彼女を害せる存在は、稀有である。

例え一国の軍隊を相手にしようとも、無傷で帰還するだけの力をエンリは保有している。


それは<<習志野の悲劇>>で、既に立証済みの事だ。


日本政府が、エンリの居場所 特定に躍起になっているのには、ひとえに拉致犯とエンリとの間で、偶発的な交戦が始まった場合、周辺への被害が予測つかない事と、エンリが、そのまま何処かに、姿を眩ます可能性を心配しての事だ。


「だって、エンリを誘拐した相手は、新興宗教団体の流れを汲むNPO法人なんでしょ?」

「おそらくな」


今の所は、状況証拠のみであるが、それは、おそらくは間違いのない事実であろうと、部長は考える。

あのNPO法人からは、ガウス真理教と同じ臭いしかしない。


「なら、もし彼らに毒されて、エンリが「世界征服なのじゃー!」なんて云い出したら、どーするんですか?」


魔法と云う『神秘の力』と、カルト的な『新興宗教団体』の組み合わせは、強烈である。

ハッキリ云おう。

これ以上に『混ぜるな危険』なモノは無い。


下手をすれば天下を取れる。

そして最悪は、魔女狩り復活からの宗教戦争勃発?


「……」

「……」


小鳥遊クンとゴリマッチョ部長は、無言で顔を見合わせた。


「大変だぁぁぁぁぁああ!!」


深夜の厨房に、部長の絶叫が木霊こだました。


『俺は何故、あの時、嬢ちゃんを喫茶店の外に、連れ出しちまったんだぁぁぁぁ!!』


後悔、先に立たず。

全ては、後の祭りである。


ゴリマッチョ部長は、痛恨の思いで、地下の前進指揮所A C Pへと駆け下りて行った。


エンリが拉致された、あの夕暮れの出来事を反芻しながら……

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