第63話 焦燥の刻 1
「きんぴらごぼう、一丁上がり!」
深夜。
喫茶店に扮したセーフハウスの厨房にて、小鳥遊クンは一心不乱に、料理の腕を振るっていた。
騒動の中心たるエンリの所在は、未だ不明。
焦りを募らせる司令部は、膠着した事態の打開を図る為、先ほど、都内に点在する
「警視庁警備部から人員をかき集めろ! 足りなければ刑事部の特殊捜査班も呼び出せ!」
「かまわん! 防衛庁からも人員を派遣させろ! マスコミにバレなければ良い。法的な問題は後回しだ!」
「馬鹿か?! 最悪、誘拐犯とアルカナ・ワンとの間で、戦闘が勃発する可能性があるのだぞ! そんな所に、普通の警官を投入できるかっ!」
『アルカナ・ワンの存在を秘匿する事』と『大規模な捜査を行う事』。
この、2つの矛盾する命題をクリアする為、現在、地下の
そんな中、小鳥遊クンは、夕飯も食べずに姿を消してしまったエンリの為、一人喧騒から外れて、せっせと弁当箱の隙間を埋める作業に没頭していた。
えっと、何故に……?
小鳥遊クンとゴリマッチョ部長が所属する厚生省勢は、今回、エンリを攫われた責任を取る形で、アルカナ・ワン探索の指揮系統から外されてしまったのだ。
上層部の意向を意図的に無視した現場責任者の厚意によって、二人は指揮所内に留まってはいるモノの、扱いそのものは、遊軍と云う名の独立愚連隊でしかない。
ゆえに暇を持て余す。
「出汁巻き卵、終了っと……」
小鳥遊クンの手によって、ヒヨコの姿を
これで また1つ、弁当箱と云う名のキャンバスに、味と彩りの芸術作品が加わった。
『さて、お弁当の空きスペース的には、あと一品が限度かな?』
冷蔵庫に残った具材を確認しながら、小鳥遊クンは「どーしよっかなぁ……」と呟く。
思い浮かんだのは、エンリの食べたがっていた
それを、お弁当用にアレンジし直してみるのは、どうだろうか?
「昆布に、
これらの食材を使って、丁寧に出汁を取る。
次に、出来た
そして、
最後に、味のアクセントとして、微塵切りにした浅葱を添える。
「うん。良い
これを、刻み生姜と胡麻塩の乗った御飯と一緒に掻き込めば……
小鳥遊クンの脳裏に、「うんまいのじゃー」と叫ぶ、エンリの笑みが浮かんだ。
「エンリ……」
彼女の無邪気な笑顔を思い出した途端、小鳥遊クンは、その場に悲痛な面持ちで、がっくりと崩れ落ちた。
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