第61話 籠の鳥 1
会頭を乗せたワゴン車がアパートの地下駐車場に到着したのは、深夜をかなり過ぎた時分であった。
ワゴン車は、民間救急車として偽装された車両で、緊急車両と違い、サイレン・赤色灯を使用しての優先走行こそ出来ないモノの、この国独特の民度の高さから、検問で渋滞する道でも、比較的スムーズに、目的地へと辿り着く事が出来た。
重篤患者に扮した会頭が担架に乗せられたまま、まずは車から降ろされると、今度は後部空間に設けられた医療機器の一部が開けられる。
そこには、子供
彼女は とても。
そう、とても不機嫌な様子で座っていた。
「ようやっと着いた様じゃの」
狭い空間には、子供が暴れて怪我をしない様に、また音が外へと漏れない様に、クッション性の高い素材が敷き詰められており、這い出してくるのも一苦労する有様である。
幼女はNPOスタッフの介助を拒否し、自力で外に這い出ると、大きく伸びをしながら、周囲を注意深く観察した。
鼻腔を
そして駐車場の暗がりには、大勢の子供の気配が感じられた。
子供達は
ただ、車から降りてきた幼女の姿を確認した事で、過去の自分を思い出したのか、口々に「家に帰りたい……」と呟きを零し始める。
「駄目でふよ。君たちは、これから<<チー・サンエラ・クォン>>へと赴き、僕ちんと一生幸せに暮らふんでふ」
そんな、どんよりとした空気を もろともせず、ひょろ長い体格の会頭は、気色の悪い満面の笑みで、子供達に雄弁に語りかける。
私と一緒に楽園に赴けば、君達には薔薇色の未来が待っている。
何も心配はいらない。
さぁ、いざ
そんな会頭に対し、集められた男児達は嫌悪感を隠そうともしない。
そして、怯えた様な顔を見せる女児達を横目に、幼女は長々と溜息を
『何をすれば、こうも蛇蝎の如く嫌われるモノのかのう……』
視線を横に流せば、その
『いやはや、『英知の書庫』が無くとも、あやつの心労が手に取る様に解るのじゃ。さしずめ、今回の件は、御し切れなんだ
冷静に周囲の状況から現状を分析する幼女。
しかし、やはり『英知の書庫』のサポート無しでは、相手のステータスは読み解けない。
『めんどいのぅ……さっさと『黒幕』とやらを紹介してもらいたいものじゃ』
探し人が見つからない事に、苛立ちを募らせるエンリ。
そんな彼女を余所に、<<児童虐待から子供達を守る活動を推進するNPO法人>>の会頭は、周囲を囲む怨嗟の声など気にも留めず、素晴らしい弁舌で自己の正当性を語り続けていた。
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