第59話 それは私と雀が云った。1

「封鎖範囲を主要幹線道 全てに拡大して、検問を掛けろ!」

「航空機ならびに船舶の出航は、指示あるまで全面停止!」

「交通規制に伴う経済損失? 構わん。数十兆円程度で済むなら御の字だ!」


普段は秘匿されている喫茶店の地下空間に、小鳥遊クン達が足を踏み入れると、そこは怒号の飛び交う修羅場と化していた。


最新鋭の設備を備えた前進指揮所A C Pからは、首都圏の交通監視情報と各省庁からの報告がリアルタイムで集められ、熟練の分析官による精査を経て、即座に現場へと返される。


これらの情報は、政府の危機管理センターC M Cともリンクされ、急遽その場に集まった各省庁 事務方トップのお歴々と共有される。


彼らは事態の推移を、固唾を飲みながら、深刻な面持ちで見守っていた。


「総理が入室します」


女性オペレーターの声と共に、前進指揮所A C Pの正面モニターが、首相官邸の執務室と繋がる。


間を置かずして、正面モニターに、官房長官を引き連れて、厳しい顔で入室した総理大臣の姿が映し出された。

手隙てすきの職員は、椅子から立ち上がると、総理大臣に対して敬礼を行い、出迎える。


「状況説明を」


椅子に腰掛けながら、総理大臣は、現場責任者に対し、状況の説明を求めた。

それに対し、前進指揮所A C Pで采配を振っていた初老の男性が、即座に答える。


「今から約6時間前、アルカナ・ワンが非営利団体を標榜する連中に拉致されました。現在 我々は、アルカナ・ワンの身柄を確保する為に、鋭意活動中です」


報告を行ったのは、喫茶店でウェイターを努めていた男である。

総理大臣は、男の簡潔かつ明瞭な報告に対し、鷹揚に頷いた。


「国家元首として、今回の事体の深刻さは理解しているつもりだ。……だが、ここまでする必要が、本当に あったのかね?」


苦虫を噛み潰したかの様な表情で、総理大臣は、前進指揮所A C Pの対応に疑問をていす。


エンリ失踪から既に半日。

時刻は深夜0時を過ぎている。


未だ彼女の身柄は確保できず、ときを追う毎に、交通規制と検問の範囲は拡大され続け、現在 首都圏では、深刻な交通障害が発生する事態にまで陥っていた。


この戒厳令もかくやと云う状況に、関係各所からは、抗議の電話が引きも切らさず鳴り響いている状況だ。


「そろそろ外野を抑えるのも限界だ。なんとか一部だけでも規制を解除する事は出来ないのかね?」


なんら事情説明のないまま、突如として始まった交通規制と検問。

マスコミと野党からは、総理大臣に対し、状況説明を求める脅迫まがいの要求が、続々と押し寄せてきている。


流石に、それらを のらりくらりと躱すのも、もはや限界だった。

「もう良いかげんにして欲しい!」と云うのが、官邸サイドの偽らざる本音である。


『どうやら総理大臣ともあろう御方が、魔法幼女エンリを失う事の意味を、真の意味で理解していないようだ』


そんな総理大臣の嘆願に、危機管理センターC M Cに詰め掛けた各省庁の高級官僚からは、あからさまな侮蔑が漏れ零れた。

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