第56話 小悪魔の囁き 3

「ついでに部長。<<チー・サンエラ・クォン>>と<<船>>と云うキーワードに心当たりは無いかのう? やつの頭の中を覗いて見たのじゃが、どうも連中が焦っている理由が、そこにありそうなのじゃ」


『おいおい。さっきから、やけに訳知り顔で相手の動きを解説するなぁ……とは思ってたけど、まさか、そいつのステータスや思考を読み取って、行動を解析していたって云うオチなの?』


あんまりの出来事に、小鳥遊クンは開いた口が塞がらなかった。

未だにエンリの突飛な技能に慣れる事が出来ないでいた。


『つまり此処にやって来たのは、彼らをおびき出す為の罠だったって事?』


小鳥遊クンは「ひょっとして、知らなかったのは自分だけ? もしかしてハブられてる?」と、自分が蚊帳の外に置かれている事実に軽く落ち込む。


だが実際には、エンリも小鳥遊クン同様、セーフハウスの件は知らされていなかった。

アパート前で部長に喫茶店に誘われた時点で、全てを察した。それだけなのである。


『そりゃあ、身内以外が作った食事には一切手を付けないエンリが、部長ご推薦とは云え、喫茶店に行くだなん云い出したから、変だなとは思っていたけどさ!』


そんな事とはつゆ知らず、小鳥遊クンはイジイジと いじけ始める。

まったく面倒臭い男である。


「さて、それでは経験値を稼いで来るとするかのぅ……」


そんな小鳥遊クンを横目に、「どっこらせ」と婆くさい動作で、エンリが席を立つ。


先程、マスターが店内にいた数人をお持ち帰りしたとは云え、窓の外には、まだまだ大勢の不良達が、思い思いにたむろしている状態だ。


そして彼らは、店内で今、秘かに起こっている筆舌しがたい惨事を知らない。

エンリの瞳は猛禽類のソレとなって、そんな獲物達に狙いを定めた。


『ダメ! このままでは彼らが危ない!』


小鳥遊クンの事なかれセンサーが、エンリの放つ殺気を敏感に捉えた。

一瞬の隙を付いて外に突撃を敢行しようとしたエンリを、小鳥遊クンは即座に後ろから羽交い絞めにする。


「部長ぉ!このままじゃ、エンリの魔法アレが露見してしまいますっ!」

「は~な~す~の~じゃ~」


暴れるエンリを押さえつけながら、必死の形相で小鳥遊クンは、部長に助けを求めた。

もう後先の事は考えていられない。


エンリの恨みを買って、後でボコボコにされようとも、ここは身を呈してエンリを止めなくては!


「小鳥遊クン。……心配するなっ!」


ポンと肩を叩かれ振り向くと、サムズアップしながら、ニカッと微笑む能天気な部長の笑顔があった。


「俺も参戦するからっ!!」

「部長ぉぉっぉぉ」


小鳥遊クンは、この日の部長の笑顔を、恨みと共に暫く忘れる事が出来なかった。

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