第47話 落書きを考察しよう 3
拘束された実行犯に対する これまでの聴取から、黒幕は この辺一帯の不良グループに、片っ端から声を掛けて回った事が確認されている。
そして その後、ご丁寧に購入先不明なペンキのスプレー缶と軍資金を、別口で大量に手渡した事も確認が取れた。
「わかってきたのじゃ。つまり、バラバラな群衆心理を1つに纏めるのが『敵』の存在で、煽動したい事柄が『目的とする行動』。そして、彼らに行動を起こさせる動機となるのが『免罪符』と『ご褒美』云う事じゃな!」
「御明察だよ、エンリ」
本当に彼女の頭の回転の速さには舌を巻くしかない。
小鳥遊クンは、一発で
「落書きってのは、軽微とは云え、反モラル的な行動かつ軽犯罪だからね。それを押して相手に行動させる為には、「これは悪い事じゃないですよ」って云う『お墨付き』が必要なんだよ」
「うむ。それが最初に書かれた4つの落書きであり、『正義の代行者』ってレッテルだ、嬢ちゃん」
相手に唆され、正義感に駆られた人間は、興味本位で教えられたアパートに近づく。
そこで目にする壁一面の落書き。
そして、お誂え向きに手にしていたペンキのスプレー缶を眺めながら、こう思う事だろう。
「なら一丁、自分もやってやるか!」と……
勿論、万人が万人、そうなる訳ではない。
だが、相手を蔑む事や落書きをする事に対して、『潜在的な欲求を抱えている者』なら、高確率で実行に移すのは、必然の流れだと思われる。
特に黒幕は、そう云う心理傾向の強いグループに対して声を掛けて行ったのだ。
そんな人間が何十人、何百人と集まれば、結果として、アパートの玄関一面に、短時間で前衛的な罵詈雑言が乱舞する、今の様な事態へと発展する。
そして
それが、小鳥遊クン達が目にしている今の現状である。
「おそらく、この落書きの存在が見物客に急速に広まったのも、黒幕の仕業だろうな」
部長は肩を竦めながら、自らの推測を口にすると、深々と溜息をついた。
「わからんのう。それで黒幕とやらは、いったい何をするつもりなのじゃ?」
エンリの質問に、小鳥遊クンと部長は困った表情で顔を見合わせた。
実を云うと、黒幕の狙いは見当が付いている。
しかし、それをエンリに云うべきか、どうか……
「……おそらくは嬢ちゃんの身柄を確保したいのだろうな」
少し思案した後、しぶしぶと云った体で、部長が口を開いた。
「はぁ!? なんなのじゃ、それは?」
エンリの素っ頓狂な声が周囲に響き渡る。
「わからんのじゃ。この身を欲する事と小鳥遊クンを中傷する事に、いったい何の関係があるのじゃ?」
大半の物事を、単騎の力技のみで解決できるエンリには、策謀や搦め手と云うモノに対する理解が、圧倒的に不足している。
彼女にとっては「急がば、直進」が常識であり、回りくどい相手の意図を読む事には、未だに慣れていない。
「まぁ、そこらへん、じっくり教えてあげるから、ひとまず場所変えよっか?」
「そうじゃのぅ……」
チラチラと背後を気にしながら、小鳥遊クンは場所移動を提案する。
ポスターの件と落書きの件から、そろそろ自分達の事に気付く人間が、群衆の中から現れても可笑しくない頃合いだ。
小鳥遊クンとしては、新たな問題が起こる前に、一刻も早く この場から立ち去りたかった。
このまま此処に留まっていると、いつか血の雨が降りそうで、気が気では無い。
「それじゃあ、俺の行きつけの喫茶店に案内しよう。お嬢には、美味いパフェを食わせてやるから、話の続きは其処で……」
「ほう、それは楽しみなのじゃ」
エンリが素直に場所移動に同意してくれた事に安堵する小鳥遊クン。
そして彼の懸念は、ほぼ当たっていた。
先程から、こちらを窺う怪しげな風体の集団が、小鳥遊クンの知らぬ間に、徐々に その数を増やしてきていたのだ。
もっとも部長とエンリは、その事に随分と前から気付いてはいたのだが……
「ちなみに、そこは多少騒いでも問題無いのかのぅ?」
「ああ、多少は……な。その点は安心して良いぜ、嬢ちゃん」
意味深な目配せをしながら歩く二人に、小鳥遊クンはアパート前を脱出するまで、
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