第39話 小母ちゃんに怒られよう 3
エンリは駆けつけた警官の正体をズバリ云い当てた。
彼らは、小母ちゃんの通報を受けて駆け付けた、一般の派出所勤務の警察官ではない。
先頃、人事が一新された監視班から「小鳥遊家に不審者接触」の報を受けて出動した、エンリ警護班の者達なのである。
「その件につきましては、責任者を更迭しましたので、ご容赦願いたく……」
エンリの露骨な皮肉に、苦笑いを浮かべながら、頭を下げる偽装警察官。
その殊勝な態度に、小鳥遊クンは
偽装警察官は、幼い姿のエンリを その見た目で侮る様な事をしない。
これは、エンリの危険性と有益性を十分に理解した者の態度だ。
「ともかく我々は、直ぐに この場から離れましょう。なにぶん周囲の目もありますし……」
「そうですね」
そう云って、偽装警察官の誘導に従って、そっと この場から離れようとする小鳥遊クン達。
だが
「大葉さ~ん。こんな所にいたのですね。探しましたよ!」
優男はそう云いながら、小鳥遊クンの脇をすり抜け、未だ喚き散らすのを止めない小母ちゃんの元へと駆け寄った。
小母ちゃんは、駆けつけた優男から何やら耳打ちされると、次第に落ち着きを取り戻し始める。
「すいません。彼女、うちの施設を勝手に抜け出してしまって……。何か ご迷惑をお掛けしませんでしたか?」
警察官と小鳥遊クン達に向かって、すまなそうに
そんな彼に対して「いえいえ、大丈夫ですよ」と、優しく言葉を掛ける、小鳥遊クン。
すると優男は、「すみません。すみません」と俯いたままペコペコと頭を下げ、浴びせ倒す様な謝罪攻勢を全方向に展開しつつ、そのまま乗って来た車に小母ちゃんを押し込むと、疾風のごとく走り去って行った。
「ちょ! ちょっと待ちなさ……」
一瞬の早業に、警察官が引き留める余地も無い。
呆然と取り残される小鳥遊クン達。
「……いったい何だったんだ?」
それは、この場に残された全員の、共通意見だった。
◇◆◇
車は迅速に現場を後にする。
遠ざかる人影をバックミラー越しに眺め、男は安堵の溜息を付いた。
「危ない所だった」
男は そう呟くと、掛けていた目立つ黒縁の眼鏡を外し、さらには額の
手にした付け
「それにしても……」
やはり今回の相手は、これまでの連中とは違って、一筋縄では いかない。
あの男の周りには、腐敗した権力の匂いがプンプンとする。
優男は、小鳥遊クンと警察官との なあなあの関係を遠目で見ており、そう確信するに至った。
「よもや警官まで買収されているだなんて……」
社会の腐敗を、男は大いに嘆く。
いつだって幼き命は、社会と欲望の犠牲となるのだ。
「しかし、こちらのスタッフを無事に回収できたのは、行幸だった」
正義感に駆られたスタッフが、こちらの了承も得ずに、勝手にターゲットに接触したと聞いた時は、もう駄目かと思った。
あの男。無害そうな外見とは裏腹に、非常に危険な人物だと判明している。
実際、小鳥遊家を探っていた友人が、数日前から音信不通となっているのだ。
状況から考えるに、あの男に消されたと思って、まず間違いないだろう。
「これからは慎重に慎重を重ねて、事を運ばなければならない」
男はそう独り
そして必ず、あの幼女を悪辣なる男の魔の手から、救い出さなくてはならない。
それが友人と最後に交わした約束でもあるのだから。
「例のポスターの手配は済んでいますか?」
男は もう
「
もう
「協力を要請した例のボランティア団体は?」
「そちらも既に、指示通りにスプレー缶を配り終えています」
男は満足気に頷くと両手をパンと叩いた。
「良し。では、これより救出作戦を敢行する。悪辣なる魔の手から幼い命を救い出すぞ!」
「はい」
<<児童虐待から子供達を守る活動を推進するNPO法人>>に勤める男は、そう決意を新たに宣言した。
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