第20話 今朝の後始末をしよう 2
「しかし最近、報告書と始末書ばっか書いている気がする……」
経験値が溜まり、エンリの
その法則には未だに気づいていない、小鳥遊クン。
エンリの方は、ここ最近、効率の良い経験値稼ぎが出来たおかげで、やれる事が増え、ホクホク顔で様々な魔法を試している最中だ。
当然そうなると、次々と発見される新しいエンリの
大気操作、精神操作、疑似生命作成、物質錬成……
発覚する
出る所やタイミングを間違えれば、国同士の戦争が起きかねないモノばかりである。
小鳥遊クンの心労は溜まる一方。
心休まる日々は、やって来ない。
実際、今朝の蜘蛛騒動1つとっても、上層部では、既に『取らぬ狸の皮算用』で、醜い利権闘争が始まっているのだ。
伝え聞く所によると、エンリによって始末された使い魔の死骸と糸は、大変貴重なサンプルとして、各省庁間で壮絶な奪い合いの真っ最中だそうだ。
「エンリ知ってる? 蜘蛛の糸って、産業化できれば数兆円規模の経済効果が見込めるんだってね」
「知らんのぅ、それに興味ないのじゃ」
金銭的な話には、エンリは興味を示さない。
ぞんざいなエンリの相槌を聞き流しつつ、小鳥遊クンはレポートを書き進める。
「ところで、あの蜘蛛って、どれくらい糸を吐き続けられるの?」
「マナが続く限り、「
「ふ~ん」
夕方、科学技術庁と防衛庁の担当官が、出たばかりの検査結果を片手に、小鳥遊クンの職場に、目を血眼にして駆け込んできたのには、本当に驚かされた。
エンリの使い魔が作り出した蜘蛛の糸の強度と
ただでさえ、蜘蛛の糸と云えば、鋼鉄をも上回る強靭さと、ナイロン以上の伸縮性を持ち、300度以上の高熱にも耐え、その重さは炭素繊維より軽量と、正に夢の様な繊維だ。
今現在も、様々な研究機関が量産化、産業化に向けて
それなのに、それを軽く凌駕する性能の糸が、魔法で創り出された疑似生命体から幾らでも生産可能であると判明すれば、日本の産業界は、少々所でない騒ぎとなる事だろう。
「文字通り、富を生み出す『魔法の糸』かぁ……」
エンリを巡る利権構造が、さらに複雑化した事に嘆息する小鳥遊クン。
エンリが産み出す金の卵は、欲深い連中には、さぞ美味そうに写っている事だろう。
だが、このままでは紳士協定を破ってでも、
それこそ、
小鳥遊クンは、より一層危惧を強くする。
『何としてもエンリを欲深い連中から守らないと!』
その直ぐ後ろには「じゃないと日本が滅びかねない」と云う台詞が続く。
しかし仕事とは云え、「核兵器の発射ボタンに「押すなよ! 絶対、押すなよ!」と書かれた紙を貼る様な行為だなぁ……」と、小鳥遊クンは自ら作成したレポートを眺めつつ思う。
なんせ、人は誘惑に弱い生き物である。
目の前にぶら下げられた美味しそうな林檎を、我慢する事が本当にできるのだろうか?
「やるな!」と云われた事を、やらずにおける人間がいるだろうか?
楽観主義者は何処にでもいる。
短期的利益を追求して、長期展望の出来ない無計画な人間は意外と多い。
こちらが幾ら「それは毒林檎だ」と忠告しても、手を出してくる馬鹿は出てくるはずだ。
「本当に守り切れるだろうか?」
小鳥遊クンは無意識に呟く。抱える不安が声に出てしまった。
そして その呟きに、エンリは素早く反応した。
「安心するのじゃ。我が名にかけて、すべての悪意から守ってみせようぞ」
エンリはポーズをビシッと決めて、ドヤ顔で云い放つ。
「てい!」
「あぅ!……痛いのじゃ」
そんなエンリに対して、小鳥遊クンは軽くチョップをお見舞する。
まったく。
「子供を守るのは親の役目! その権利は、エンリにも渡すつもりはないからね」
小鳥遊クンは
そんな小鳥遊クンに対し、エンリも心なしか嬉しそうな表情を見せる。
だが、そんな甘々な雰囲気も そこまでだ。
「ひとまず。周囲からマスコミがいなくなるまでは、魔法は禁止だからね、エンリ」
「のぉぅう! それは殺生なのじゃ!」
最近調子に乗ってきているエンリから、こうして暫定魔法禁止期間を勝ち取った小鳥遊クンは、満足気な顔で眠りにつくのであった。
これで、しばらくは平穏が保たれると信じて……
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