第11話 暴走族に注意しよう 5
一瞬の隙を突かれて、エンリの姿を写真に撮られてしまった。
「しまった」と後悔するも、もう遅い。
写真を撮った青年の意図は明白だ。
これ以上、付き纏って欲しくないなら、出すモノを出せと云う事だろう。
利用するスーパーマーケットは基本自宅近傍。
なら、ここを校区とする学校を調べ上げ、通っているであろう学校に張り込み、下校時に後を付ければ、自宅を割り出す事など造作もない。
そして あちらは、警察の介入を念頭に入れて、これまで具体的な恫喝は行っていない。
これでは警察を本格的に動かして、危険分子を排除する事は不可能だ。
せいぜい巡回強化を お願いするくらいしか出来ない。
えげつないやり方に小鳥遊クンは歯噛みする。
目の前の暴走族は、「ひょっとしたら、何かされるかも知れない」と云う相手の被害妄想を巧みに膨らませて、相手が自分達を勝手に恐怖するよう誘導し、云う事を聞かせる
まぁ、小鳥遊クンの場合は、「エンリが何をするか判らない」と云う加害妄想になるのだが……
そして、その微妙な違いによる反応の差異が、青年を苛立たせる原因となっているのだ。
「その写真。消去しないと、とんでもない事になりますよ」
小鳥遊クンは、込み上げて来る恐怖を押さえつけ、青年に向かって言葉を紡ぐ。
「なんだぁ? その目は?」
小鳥遊クンの反抗的な態度に、青年は怒りで以って答える。
『そこは、もっと下手に懇願する所だろーが?』
どうも勝手が違う事に、青年は不快感を露わにし、そして なかなか自分の思い通りにならない事にイラつく、イラつく、イラつく。
「申し訳ありませんが、ロリコンっぽい人に、可愛い娘の写真を持たせたくないのです」
そんな中、小鳥遊クンから爆弾発言が飛び出した。
青年は、ヒートアップした頭に冷水を浴びせかけられた気分になる。
「リーダー、ロリコンだってよー」
「ぎゃはは、ロリコーン」
小鳥遊クンのロリコン発言がツボに入った下っ端連中が、青年を一斉に
「後でぶっ殺す!」と顔を真っ赤にしつつ、青年は必至で その場を取り繕う。
幼女趣味の暴走族など ありえない。風評被害も
「いやだなぁ。娘さんが、あまりに可愛いモノだから、思わず写真に撮っただけじゃないッスか」
「リーダー。やっぱロリコンじゃないッスか!」
「単なる危ない人っすよ」
どうしてこうなった!?
これは極めて高度な
それなのに、何も考えていない部下の、間髪入れない発言が、すべてを台無しにしていく。
「これだから馬鹿は嫌いなんだ!」と毒づく青年。
こいつらは金を稼ぐ苦労を何もわかっちゃいない。
今時、ただ脅しただけで簡単に金を手に入れられる訳がない。
わざわざ
親の目、教師の目、警察の目。
それらを掻い潜って金を持ってこさせるのに、自分が どれだけ神経を使っているか、何もわかってはいないのだ。
要求する額にタイミング。
それらを ちょっとでもミスれば、たちまち後ろに手が回る。
その見極めすらできない馬鹿が、俺の邪魔をするんじゃねぇ! 寄生虫が!
青年は憤りを露わに、心の底で吠えた。
「ちょっと、その写真見せるのじゃ」
「え? あぁ……」
そんな中、ふいに伸ばされた小さな手に、リーダー格の青年は思わず自分の携帯を渡してしまう。
「消去っと」
ピロリンと云う音と共に、先ほどの写真がメモリーから消える。
用済みとなった携帯を青年に投げて寄越すと、エンリは颯爽と小鳥遊クンの元へ駆け寄り、「さぁ、帰るのじゃ」と手を引いて進みだした。
「え?」
一瞬の出来事に、青年は成す
理解が追い付いた時には、二人は囲みを抜けて、帰路に着こうとしている。
「おい! ちょっと待てや!」
二人を慌てて呼び止める青年。
「なんじゃ? まだ用があるのか」
その声に鬱陶しそうに振り返る幼女。
瞬間、青年の背筋に悪寒が走った。
「ひぃぃぃぃ!」
殺されると思った。
瞬時に四肢が震え、咥内は渇き、胃が締め付けられる。
こ……この感覚には覚えがある。
暴力に慣れ切った武闘派のヤーさんが、これに似た気配を纏わせていた。
いや、これは それより数段上の……
嘘だ! こんな幼女が、何故?
『やばいモノに手を出してしまった!!』
リーダー格の青年は、たぐいまれなる生存本能と直感で、エンリから
しかし鈍感な周りの連中は、誰一人その事に気付いていない。
「リーダー、このまま帰して良いんすか?」
「ヤキ入れましょうよ、ヤキ」
呑気な連中が、不穏な提案を好き勝手にし出す。
「お、俺は知らん。勝手にしろ!」
後は何も考えられなかった。
胃の腑を鷲掴むように、ドンドンと暗く、重く、険しいモノに変わっていく圧力から逃げる様に、リーダー格の青年は、急いで自分の愛車に跨ると、何も云わず その場を後にする。
「なにそれ?」
「うちらがケツまくって逃げるんっすか、おっさん相手に?」
「幻滅ぅ」
好き勝手な暴言を背中に受けても、それでも青年は、その場を去る事を優先した。
それが、己が命運を分ける事を知っていたかの様に……
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