第7話 暴走族に注意しよう 1
「
「ええ、うちには育ち盛りがいるのもので」
お昼時、近所のスーパーマーケットで ばったり会った ご近所さん(男)と 挨拶を交わしつつ、小鳥遊クンは食材を物色する。
「のう、小鳥遊クン」
針の
「どうしたの? エンリ」
「さっき挨拶していた男、最近良く見るのう……」
「そうだろうか?」と小鳥遊クンは首を傾げる。
云われてみれば、彼とは最近遭遇する機会が多いように感じる。
勤務形態が近いのか、朝の出勤時と帰宅時には、必ず挨拶を交わしているし、この前など、残業で午前様になったのにもかかわらず、
「それよりエンリ。なんか外が騒がしくない?」
先程から、店内にいるにもかかわらず、相当なレベルの爆音が引っ切り無しに外から聞こえてくるのだ。
買い物客も不安そうにガラス張りの出入り口の向こうを気にしていた。
「なんじゃ? 今朝の報告を聞いておらなんだのか?」
エンリは不思議そうな顔で小鳥遊クンを見上げた。
「云うておったろう? 夜中の騒動で羽虫どもの首魁が一掃されて、首都圏を中心に、奴らの勢力抗争が勃発したと」
カッカッカと笑いながら、とんでもなく不穏な発言をするエンリ。
「ちょ、エンリ。いったい
いたって呑気なエンリに対し、ちょっと焦り気味に問う小鳥遊クン。
確か その話は、会議の冒頭辺りで、ちらりと話題に上っただけのはずだ。
そんな小鳥遊クンに向かい、にんまりと「最初から隣におったではないか」と平然と云い放つエンリ。
これでは機密も何もあったものではない。
「今思い返しても笑いが込み上げてくるのぅ。特に「楽にさせて頂き、恐悦至極に ござい奉ります」と、<休め>のポーズは、腹が捩れて笑い死にしそうだったのじゃ」
小鳥遊クンの痴態は、余すことなく養女に見られていた。
恥ずかしさのあまり、身もだえる小鳥遊クン。これでは養父の威厳も何もあったものではない。
しかし同時に、あの会議室で、なぜ自分が着席も出来ずに、4時間以上も立たされっぱなしで会議を聞く破目になったのか、
考えてもみれば、小鳥遊クンの隣には椅子が1つ、やけに不自然に置かれていたではないか。
おそらく、あの椅子は本来、小鳥遊クンが座る為に準備されていたモノだったのだろう。
だが そこには、本来座るべき人物の代わりに、最初から何食わぬ顔で、エンリが悠々と座っていたのだ。
故に誰も、その椅子に小鳥遊クンを座らせようとは思わなかったし、小鳥遊クンも座ろうとは思わなかった。
エンリは出席者全員の認識を巧みに阻害し、あの場にいる誰もが、そこにいるエンリの存在を肌で感じていながら、実際には意識の外へと置くようにと、誘導していた。
つまり、誰もエンリが見えているのに、誰もエンリが見えていなかったのだ。
だからエンリが術を解くまで、誰も彼女の存在を気にも留めなかったし、記憶に残す事もなかった。
「これって、光学迷彩みたいな物理的隠蔽じゃなくて、もっと精神的な、それこそ
ぐうの音も出ない小鳥遊クン。
魔法と云う技能の深遠は、未だに底が見えてこない。
そして また1つ発覚したエンリの特異技能と、その危険性。
特に今回発覚した精神干渉系の魔法は、その危険度が群を抜いている。
いや、危険の質が違うと云うべきか……
提出しなければならない報告書の山が さらに増えた事に、小鳥遊クンは絶望の色を隠せない。
その場で頭を抱えて
「とにかく家に帰ろう……」
ガックリと意気消沈した小鳥遊クンは、とぼとぼとレジへ足を向けた。
足元ではエンリが、お気に入りの菓子袋を手に「買って、買って」と連呼しているのだが、傷心の小鳥遊クンの耳には、まるで届いていない。
いや、本当は届いてはいるのだ。
しかし、子供のおねだりを無条件で聞き入れるほど、小鳥遊クンの躾は甘くなかった。
欲しがるままに与えては、
その教育スタンスは、歩く核弾頭と揶揄されるエンリ相手であっても何ら変わることはなく、故にエンリの駄々は当然のごとく却下される。
小鳥遊クンは躾の為なら己が命を危険に
……たぶん。
ちなみに、かつて所属する部隊をエンリによって壊滅させられた ある男は、小鳥遊クンの こうした行動を同僚から聞かされ、「
そんな散々な外部評価を知りもしない小鳥遊クン。
お菓子を
ぶーたれて戻って来たエンリを連れて、足早にスーパーを後にした。
その判断が大いなる誤りとも知らずに……
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