灰を被る-8
「そうですか」
魔女は、ぎし、ぎしと床を軋ませて、椅子に座る少女の方へと近寄っていく。
そして、少女の変色した手を取ると、ゆっくりと引っ張って立ち上がらせる。
「貴方は、
魔女は、少女と共に、部屋の隅の暖炉の方へと向き直る。
もちろん少女は、その意図を理解した。だが、少女のそれとは違い、魔女の左手は、少女の背中を撫でている。
「貴方の大事な
小動物を愛でるように、魔女は少女の腕を、そっと握る。
「はい……魔女様。私の、私の復讐は……もう、終わってしまったんです」
魔女が促すのに応じて、少女は、自ら足を踏み出す。
山小屋には似つかわしくない立派な暖炉は、轟々と炎を吹き上げ、まるで罪人を待ち構えるように鎮座する。
「あの時……あの時、私の
「何を知ってしまったのですか?」
「
少女は、絶望していた。許されざる悪女を痛めつけ、心を折り、腸を穿り返して得られた結論が、彼女もまた嫉妬に歪まされた、ただの人間でしかなかったという事実に絶望していた。
何より、死の淵に立たされて、
「だから、助けてください。私の
涙ぐみながら、少しづつ前に進む。だんだんと熱源が近くなってきて、肌が汗ばむ。
「同じなんかじゃありませんよ。だって貴方は、こんなにも綺麗ではありませんか」
魔女はそういって、今度は、少女のブロンドの髪を撫でる。その髪は相変わらず美しい光沢を放っていたが、頭頂部だけは、まるで灰でも被ったかのように、黒ずんでいた。その汚れを、魔女はさっと払う。すぐに、美しい少女へと戻った。
「私は、永く生きたいのです。深い理由がある訳ではありません。ただ、死にたくないのです。貴方だってそうでしょう――死を望む生物など、この世にはいません」
「それでも、私は……」
少女は、ぽろぽろと涙を零す。
「それでも私は、償いたいのです。謝れなかったから」
少女の訴えに、しかし魔女は、眉一つ動かさない。ただ、背中と頭を優しく撫でて、少女が落ち着くのを待っている。
ああ、あの時と同じだと、少女は理解する。きっと、何をしても抗うことはできない。
あの時私は、罰せられることはない、と思ったが、あれは甚だ勘違いだった。悪意ある行動は、別の悪意によって罰せられる。
少女は、考え事をしながら、暖炉の目の前までやってきた。手を翳せば、もう届く位置に炎が渦巻いている。
ああ、恐ろしい。炎はもう、どうしようもなく恐ろしい。こんなものの中に放るなんて、人間のすることではない。改めて、少女は強く感じた。
「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……
少女は悲しみのあまり立っていられなくなって、膝からその場に崩れ落ちると、燃え盛る地獄の釜に対して懺悔した。
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