灰を被る-3
街外れの、とあるお屋敷。
少女ルクレツィアは、台所の炉の側で、燃え殻の中に屈んでいた。
ぼろぼろに荒れた腕を押さえて、燻るように震えながら蹲る。
綺麗で物珍しいブロンドの髪も、灰に塗れては輝きも失われてしまい、台無しというものだ。
その上、最近の空模様は雲深いから、高所の窓から差し込む陽光も、少女をちっとも明るく照らしてはくれなかった。
「おい、ルクレツィア! ここにいるんでしょう!」
少しだけ意識を飛ばしていた少女は、部屋の外からの呼びかけに目を覚ます。
それは
少女は気怠げに身体を起こすと、渋々扉を開ける。
そこには、茶色の髪をした、背の高く上品な身なりの女性が、不機嫌そうにして立っていた。
「どうしたのですか、
「広間まで来なさい。おまえに話があるわ」
「今すぐ……ですか? どうして――」
「口答えするな。聞こえなかったの?」
「……っ、はい、分かりました」
少女は嫌な予感を覚えたが、仕方なくといった様子で、服に付いた灰を払うと、
* * *
「おまえ、あたしの櫛を盗んだでしょう!」
広間には少女と
「私じゃありません」
「おまえじゃなきゃ、誰が盗むっていうのよ!」
少女は実の母親を幼い頃に失くしていて、この
だが、
何かにつけては因縁をつけ、目の敵にし、雑用を押し付ける。そうして少女を虐めては、口端を吊り上げるのだ。
おまけにこの
それだから、こんな風に理不尽な言い掛かりを付けられる事は日常的であったが、今回は、
「だったら、
少女は
それが、
「何……その態度? そう、あくまで認めないっていうのね。だったら、あたしにも考えがあるわ」
「あの櫛はね、小さい頃にお母様に買ってもらった、大事な櫛なの。誕生日のお祝いに! 本当に大切なものだったのよ! それをおまえが奪うっていうなら……」
「やっ……やめて下さい、
「お黙りなさいっ!」
ぼう、と、服は忽ち燃料になる。赤い炎は瞬く間に青色の布地を侵蝕し、毛の焦げる匂いと共に布は縮れていく。
「アハハハハハハッ!! これでおまえも、あたしの気持ちが分かったでしょう!」
「あ……あ、あ、あああっ……!! 嫌っ、いやああぁっ……!!」
めらめらと燃え上がるドレスを見て、少女は痛みも忘れ、立ち上がる。
目にも留まらぬ速さで暖炉まで駆け寄ると、そのまま、炎の中へ躊躇なく腕を突っ込んだ。
「ちょっ……ルクレツィア!? 何をしているの!!」
やがて火は消えたものの、煌びやかな青色のドレスは殆ど焼け焦げ、随分と熱で小さくなってしまった。
少女は爛れた両手でそのドレスを掴もうとするが、少女の指が触れたそばから、黒褐色の布片がぽろぽろと崩れ落ちていってしまう。
「う……うぅ……あ……」
「ふざけるな、傷跡でも残ったら、誤魔化しが……いい、おまえは何も言うんじゃないわよ!」
「あぁ……お母様ぁ……うえぇぇ……っ」
「ちょっと、聞いてる!? ……クソ、誰か! 誰か! ルクレツィアが、火傷をしてしまったわ! 早く!!」
* * *
その後、少女の両腕には、指先から手首の方まで、黒く痛々しい火傷痕が残った。
両親へ、少女への蛮行が露見することを恐れた
苦しい言い訳であり、少女が本当のことを告げてしまえば、自分の立場が危うくなる状況であったが……少女は、両親に何も言わなかった。上手く事が運び、
けれど、俯く少女が、どんな表情で自分の背を見ていたのかということを、
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