小説。 同棲。
木田りも
同棲。
小説。 同棲。
私は今日、あんこが入った大福を食べた。私はつぶあん派で、意外と安っぽい味が好きだ。思えば自分が食べたかったものを食べれたのはいつぶりだろうか。なんだかんだ甘いものを食べたのは久しぶりである。やはり世の中の人々は甘いものが苦手なのだろうか。
2221年。思想や価値観には留まらず、生活にまで国が関与するようになった。環境が変わり、食料難になり、1日に食べる量、物まで統制された。国から1ヶ月分の献立表が送られてくるようなものだ。
それで今日の食事、というか食後のデザートが大福だったのだ。私はこの喜びを噛み締めている。しかし、他言を安易にしてはいけない。他の人が自分と同じものを食べているかすら証明はない。もっと言えば他人が違うものを食べていると分かった場合が怖い。即、施設に送り込まれ、拷問されて、何事にも反論しない何があっても笑顔なそんな統制された人物にされてしまう、、らしいからだ。だから昨日は何を食べたかとか、何をしたか、などといったくだらない質問や雑談は全て廃止された。全て必要最小限のエネルギーしか使わない会話。無駄を省き、ただ生活をするだけの身体。
チャイムが鳴り、人々は皆、外へ出る。今から200年前。世界に起きたパンデミックにより外に出ることが悪とされたため、人々は家に篭もりがちになった。しかしその感染症が今はすぐ治る時代になっている。外に出ることを国が推奨するようになった。外に出て会いたい人などに会える時間。私は彼の元へ会いに行く。
「好き。」
「私も好き」
好き、とは便利な言葉でこの言葉1つで相手への好意だけでなく、相手を幸せにされる満足感も与えることができる効率的でさらに短い言葉。
「2日ぶりだけど、体調はどう?」
「特に変わりないよ。そっちは?」
「うん、元気。」
手を繋ぐ。会話だけが全てではなく、こうしてスキンシップや、沈黙があるからこそ成立する愛もある。
「昨日は何したの?」
「いや、それは」
彼が話し始めた途端、アラームが鳴った。
彼に言論統制警告のアラームだ。慌てて止める。
「へへ、そうだった、ごめん。」
「いいのいいの。」
彼は一度捕まっている。しかし、組織に洗脳されたフリをして拷問を受けずに帰ってきたらしい。私との関係も変わらずで安心した。私は彼のことだけはとっても信頼している。もちろん、どんなに近づいても他人であること、彼とはいえ、いつでも別れる可能性があることはしっかり頭に入れている。
「私ね、あなたといる時が1番幸せだよ」
「さっき好きって言ったじゃん」
「それでも、私は幸せ」
「幸せなんて4文字もあるよ。長いものは無駄だよ。」
「それでもいいの、」
チャイムが鳴って、帰路につく。家に帰ると、私はロボットのように口角が下がりまたいつもの生活に戻る。この出会いのチャイムは今までは1日に1回必ず鳴っていた。今は3日に2回。しかし、国はそれを「24時間に1回から72時間に2回に増えました」と大々的に宣言した。増えていないのである。しかし多くの民衆はそれに感謝し頭を下げた。私はそれに気づいてはいるが、敢えて気づかないふりをしている。気づいた、ということを公表した瞬間、私はきっとこの世界から消される。
明くる日。配給。今日はいちご大福が出た。驚いた。私の1番好きな食べ物なのだ。あんこの大福よりももっと好きなものだ。いちごの酸味と大福の甘味が奏でるハーモニーは最高級の音色を奏でる。この食べ物を生み出した人を褒め称えたい。そんな食べ物だ。
チャイムが鳴る。私はいつものように支度をし、彼に会いに行く。
「好き」
「私も好き」
いつものように愛を確かめ合いハグをする。当たり前にこの幸せが得られるのはきっととっても幸せなことなんだと思う。この幸せに慣れることなく永遠に続いてほしいと、常々考えている。
「ぼくなりに考えたんだけど…」
「何を?」
「昨日、本を読んだんだ。その中にこんな文章が書いてあったんだ。聞いてほしい。[君は昨日何していたの]って」
アラームが反応しない。
「ほら、やっぱり。この国はまだ表現の自由にまでは手をつけていないみたいだね。」
「なんか、難しいこと言ってる」
「質問に答えて」
「君のことを考えてたよ」
彼が照れている。とっても可愛かった。やっぱり彼は信頼できる人で私にとっての結婚相手であると確信している。私は話し始めた。
「1つね、すごいしょうもないことなんだけど言いたいことがある」
「何?」
「私の1番の好物知ってる?」
「うん、知ってるよ」
「それがね、今日出たんだよ」
「あ、うん。」
「え。何その微妙な反応」
「いや、なんかさ、その。。」
「え、もしかして、、」
「うん、もしかしてだわ。」
「え、ごめん、どうしよう」
「大丈夫、僕だから大丈夫。誰にも言っちゃダメだよ。」
「うん」
「大丈夫だって!!」
彼は今まで見せたこともないような笑顔で私を見た。それが少し怖く感じた。
沈黙が訪れた。
「あのさ、今日いい天気だね。」
「うん」
「あ、本で読んだんだけど、昨日は何してたの?」
「君のことを考えてたよ。」
「今日はチャイムなかなか鳴らないね。」
「実はもう鳴ってるんだ。」
「え?」
「これね、帰れる人にしか聞こえないんだよ。」
「え?」
「ごめんね」
私は帰れなかったらしい。大きな音と痛みがした。
______
・普遍的な日々。
私と彼との結婚生活は実に素晴らしいものである。朝起きるとキスをする。お互いの愛が不変であることを確かめ合いながらハグをして、1日が始まる。それ以外は意外と普通なのだ。普通だからこそかけがえのないものであり、日常に転がっている小さな幸せをこの人となら多く見つけられる。そんな世界をこの人なら信じられるのだ。そして、彼が帰ってきて、そのうち子供もできて、しあわせな日々の中で私は年老いていくのだ。そんなことを考えて布団に入り、私はまた深いまどろみに入るのだ。 おわり。
______
「目が覚めた?」
彼の声が聞こえる。目隠しをされているのか真っ暗だ。
「ここはどこ?」
「ある一つの空間。」
「どうしてこんなことするの?」
「ごめん、、国が決めたことなんだ。じゃないと僕が消される。言う通りにしてくれればすぐに帰れる」
「なんで」
「大丈夫、ぼくはすぐに帰れた。だから大丈夫」
目隠しを取ってくれた。白い部屋。横にテーブルがあって何かある。何かに、布がかかってる。
「今日はね、またあんこの大福だったんだよ。お昼のデザート。なのに君はいちご大福が出たと言ってしまった。これはルールだから仕方のないことなんだけど、今日食べたものはあんこの大福なんだ。いいかい?あんこの大福だよ?」
布がめくられる。そこにはとても大量のいちご大福が並べられている。
「今から君はこれを食べる。正直に言ってほしい。何を食べたかを。いや、何を食べたと思ったかを。嘘はダメだよ。こちらに調子を合わせるのもダメ。あくまで君が思ったことを言うんだ。いいね。」
「私は、どうなるの」
「質問には答えられない、ごめんね。(小声で)監視されてるんだ」
「え?」
「さあ、始めようか」
彼は私にいちご大福を食べさせた。
「今、君は何を食べたかな?正直に教えて」
「い、いちご大福です」
「ごめん。」
彼はわたしのみぞおちにパンチした。ふぐっと声にならない声が出た。
「違う、これはあんこの大福だよ?君ならわかるはずだ。これはあんこの大福だったんだよ。」
「い、いや、、どう見ても、、」
「もう一口」
彼は強引に口に入れる。
「どうかな?」
「…………いちご大福です。」
パンチ。
「頼む。これはあんこの大福だよね?
あんこが入った美味しい大福だよね?」
「ぅぅ」
「答えろ。」
パンチ。
………………パンチ。
彼が彼じゃなくなっている。彼がだんだんと笑顔になっていく。私は、目の錯覚だろうか。いちご大福がだんだんとモノに見えてきた。食べ物でもなく、人でもなく、モノ。何かわからないモノ。私はモノを口に入れられている。頭が色や形、食感や味だけを頼りにいちご大福と発言するようになっていた。風が吹いている。強い強い風が。
「これで49回目だ。もうこの大福も28個目だよ。30個用意したのにここまで粘る人はなかなかいないよ。いま、これは何に見えるかな。」
「いちご、、?いちご……いや!あんこの大福に見えたいです!!見えたいんですけど、味も色もいちご大福にしか見えないんです!そんな私が変なんです!!変なのは私です!!どうすればあんこの大福に見えますか!?!?」
「落ち着いて、まずは深呼吸だ、大丈夫もう少しだから。だいぶいい感じになってきた。よし、秘密兵器を使おう。これ使えばみんな大丈夫だから。とりあえず目隠しをしようか。」
「え、ちょ、何を。」
ガタンと扉が閉まり、暑くなり寒くなり、気持ち悪くなり、ハイになり鬱になり、痛くなり、気を失った、、らしい。
「僕はずっと疑っていたんだ。君には君の思想がある。つまりこの国のことを信用できていない。それはダメなんだ。この時代では、国が管理する。君の思想も言論も。君はいちゃいけないんだ。君に代わる君と話をしよう。名前も関係性も変わらない。いわば君の中に眠る君と話をするだけ。」
水をかけられ○は目を覚ました。
「あ、、ここ、あえ、、わはひ。。あの、その、、」
「君はね、いまからここにあるモノを食べてもらう。それはあんこの大福と言ってね。少し酸っぱくて甘い美味しい食べ物なんだよ。君はそれが大好物でね。これから食べるからそれの名前を言うんだ。いいね。」
「は、はひ」
○はそのあんこ?の大福?を食べた。口に酸味と甘味を感じ、美味しかった。たしかにこれは私の大好物だ。
「あなたは何を食べたかな?」
「あんこのだいふふでふ。」
「はい、よく出来ました。」
目隠しが取られて○は自由の身になったんだと思う。
「あと、言い忘れてたけど、僕と君は恋人同士だから、よろしく。」
「はひ、よほひふおねはいしはふ。」
「喋れなくなってきたね。これから、[会話]を教えてあげるよ。君はこれまでと何一つ変わらない生活を送ることができる。ただひとつだけ覚えておいてほしいんだ。」
彼は私を見つめる。
「世の中、みんな他人だ。」
空間は消えていく,,,,,,,,,,,,
ハッと目を覚ますと、そこは自宅。どうやら夢を見ていたらしい。今は西暦2021年。8月。。
ハァーと声が出る。長い時間を夢で過ごした感覚なのでとても疲れている。未来にはもっと希望を持ちたい。今から200年後かぁ、、となんとなく考える。机の上の、あんこの大福といちご大福か2個ずつ入っているパックを見て、これからも仲良くして欲しいと願うばかりだ。
スマホに着信がある。彼からだった。
「もしもし、もうそろそろ行ってもいい?」
「あ、うん。待ってる。」
「じゃあ、今日からよろしく」
彼が笑っている。
私たちは今日から同棲を始める。
おわり。
あとがき
ワードウルフというゲームをご存知だろうか。複数人で一つのワードについて議論し合うのだか1人だけ似ている(もしくは真逆のものなど)ワードであるというもの。少しのズレや感覚の違いを参考にその1人を当てるゲームだ。唯一違う人は大勢の意見に同意し、そこに紛れ込む必要がある。そのことがどうしても、統制社会や、そう言ったものに似ていると私は感じた。
私は政治にも社会にも疎いと今回、痛感した。だから世の中の変化に勝手に順応してしまうと思う。当たり前のように変わり続ける世の中を見て何を感じるか、どう思うのか、それは忘れてはいけないことだと思うが、ついていけるのかはわからない。書いていて空虚な気持ちになった。未来はどうなっているのか。
読んでくれた皆様に感謝する。
小説。 同棲。 木田りも @kidarimo777
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