第52話:樹海から愛を込めて
翌日ノエルはテレビを眺めても昨夜の狙撃が流れていない事が気になっていた。
『恐らくそんな人間はいなかったという事にしたんでしょう』
思考を読んだフェンリルがそう説明する。
『どういう事?』
『予想でしかありませんがよろしいですか?』
『構わないわ』
『恐らく他社員へ表向きは実験で死んだ事にして書類上はそんな社員はそもそも入社して居なかったことにしたんでしょう。そんな社員は居なかったのですから粛清者が動くことも無いしわざわざ事故の死人を調べる必要も無いでしょう。本当に重要な人員ならコピー人格位あっても何ら不思議ではありませんしね』
『人格のコピー…ね。魂の複製も同然じゃない?』
『自分を含めて人間なんてただの消耗品と考える者達ですから。常識なんてないですよ』
『恐ろしい話ね』
朝食を済ませ、フェンリルとの雑談を交えながらメイド姉妹の戦闘訓練を始めた。
ノエルの戦闘能力はフェンリルの補助がある事を差し引いても高い戦闘能力を持つ。対モンスターに関しては剣より銃の方が良い場合が多く。ノエルの射撃技術は十分銃など使ったことも無い姉妹の射撃技術を向上させた
姉妹は若干の意図が分からない指示に困惑しながらもその指示をしっかり聞き実行しその指示実行前との違いを実感して行った。
「対モンスター用の銃は基本的に反動が大きい。下手に片手で撃とう物なら当たらない上に腕を痛めて無駄に回復薬を消費する事になる。回復薬の消費は探索可能時間の消費に等しい。片手でも十分な命中精度を実現できるなら兎も角しっかり両手で構えなさい」
対モンスター用の汎用通常弾は50口径でありこれは強力なモンスターにある程度ダメージを保障出来るのが50口径だったというわけだ。どうせある程度シーカーとして戦えるようになれば通常弾等使わずもっと強力な銃を使うようになるのだ。究極的には「撃って殺せる威力があればいい」のだ。
そんな姉妹たちを教育し、依頼をこなす事一週間が経過した。
姉妹達に銃の使い方やシーカーの常識を一通り教え、休憩をしている時だった。
『ノエル。リーナから通話要請です』
『分かったわ』
視覚情報に上書きされた通話要請通知に視線操作で通話を受けた。
『もしもし?リーナ?』
『久しぶりね、そっちは落ち着いた?エイリスから聞いてる分にはある程度落ち着いてるって聞いてたけど』
『こっちはある程度は落ち着いて来たわね。今日はどうしたの?』
『ここ一か月くらい周囲に影響を与えて賞金を賭けられるようなモンスターがいるのは知ってるわよね?』
『えぇ、億単位のも居るんでしょ?』
『そう、それそれ。ちょっとそれを知り合いを集めて倒す事になったのだけどノエルにも参加してほしいの。細かい話をしたいし午後地図データ送るからその店に来て欲しいの。何か既に依頼が入ってるって言うなら私から断っておくけど』
『特にそう言うのは無いし、いい加減都市の外に出れないのは困るから倒そうって言うのなら参加するわ。報酬も期待できそうだしね』
『助かるわ。じゃあ後で地図データを送るから』
約束の時間の少し前
ノエルは集合地点の店がある繫華街に居た。この繁華街は大通り一つが繁華街として機能しており、公序良俗と言う言葉が欠片も無いような場所だ。
飲み屋は勿論風俗からそう言った店で使われる薬を専門に売る店。店の前にはボディーラインが出る服や殆ど裸同然の者も少なくない。
『なんで寄りにもよってこんな場所なのかしら』
『仕方ありませんよ、そう言う場所だという事で割り切ってください』
『そうポンポン割り切れないわよ。文句の一つでも言わせてよ』
ノエルは大型の銃こそ持って来ては居ないが近接武装を多数所持し、フードと仮面で顔を隠していた。
ノエルは性に欠片も興味が無い。メイドの姉妹が生理がきているというのにノエルには生理と言うものが欠片も無かった。ノエル本人も自分が少々人間として欠陥や違う事を自覚しているが変えるつもりも無ければ気にしても居ないし治すつもりもない。
それでもこの場所はノエルにとっても少々居心地が悪かった。仮面もフードも付けずにこの大通りにきて一分立たずナンパされ、風俗に誘われた。ノエルは殺すのは簡単だが後が面倒だと察し直ぐに迷彩機能でその場を離れた。
約束の時間店にノエルが入店した。すると直ぐにリーナがノエルの元に駆け寄り案内を始めた。
「やっぱりノエルの場合目立つわよね」
「えぇ、おかげで大変よ」
「フードと仮面あってよかったわね」
そんな文句も挟んだ話をしながらもリーナはノエルを目的の席まで案内した。
その案内された席には顔見知りが一人いた。
「よぉ、来ると思ったぜ」
「そっちこそこう言うのはウルフフラッグでやるんじゃないの?」
その男はサトナガだった。彼はノエルと同じように強化服を着込み酒を飲みながらその場で寛いでいた。
「俺は抜けたんだよ、リーナと大体同時期にな」
「何?同窓会なら私断った方が良い?」
「いやいや勘弁してくれ。勿論条件が気に入らないならそん時は仕方ないが」
「それで、その賞金首討伐の話を聞きに来たわけだけど」
「俺が説明してもいいが俺よりもリーナとやった方が後腐れないだろう?」
「それもそうね。と言う訳でリーナ?」
「まぁ、呼んだのは私だし良いわよ」
リーナは以前とは全く違う強化服を装備してた。ノエルの迷彩コートの技術を移植されているようだった。青いその強化服は彼女の体系にぴったりフィットしており、彼女の綺麗な金髪とマッチして似合っていた。
「お酒飲む?勿論料理もあるしそっちだけでもいいけど。注文先通しましょ」
「分かったわ」
注文を店員に通した二人は早速志保との話となった。
「今回の賞金首は南部に広がる樹海から来たモンスターの群れで小型・中型・大型の個体が居るわ。賞金がかかっているのは中型と大型でそれぞれ中型が5000万ルクルム大型が3億ルクルム
大型は現在1体確認されてるけど中型が数が減ってはいるけど10体現存してる。
報酬の分配は経費を差し引いた残りを等分する形になるわ。作戦内容は当日説明する事になるんだけど…今までの中で質問は?」
「経費はどこまでが経費で落ちるの?」
「基本的には消耗品ね、弾薬や汎用エネルギーパック等かしら。流石にノエルの銃の専用弾は難しいけど数発程度なら大丈夫よ。あと車なんかの足はこっちで用意するからそれは大丈夫」
「こっちは支払われる報酬分だけ仕事をする。これは私の便利屋としての原則だから報酬に見合わないなら逃げる事もあるわ、私だって死にたくないの」
「せめてそれする前に一声はかけてくれるなら大丈夫でしょう」
「なら一先ずこちらからは無いわ。よろしくね」
「こちらこそよろしくねノエル」
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