第53話:樹海から愛を込めてII

 日光が熱く感じる日、大空には機械の花が咲き誇り地上に住む者たちを見下している。

 そんな大空の花弁をノエルは眺めながら欠伸を嚙み殺していた。


 ノエルは最近はある程度規則正しい生活を取っている。

 決まった時間に起きて、ある程度決まった時間に食事を取り、決まった時間に眠っていた。

 今回の作戦はかなり朝早くに開始となる為ノエルとしては少々眠かったのだ。とは言えしっかり睡眠はとっており、コーヒーと言ったカフェインの摂取もしているので作戦に支障が有るという事は無いだろう。


『今まで気にしたことは無かったけれど…大きな花ね』


 ノエルが空に浮かぶ大きな花を見ながらそう呟く


『あれはコロニーですね。上流階級の人間が住まう場所であり尚且つ他惑星等へのトランスポートゲートでもあります』


『トランスポートゲートって何?』


『簡単に言えば瞬時に離れた場所に行ける道具ですね。あの花は旧世界の異物で残存しうる中でもかなり希少で特殊な物でしょう』


『そう…』


『聞いてきた割には興味が薄そうですね?』


『壁内の中位区画すら入る事はほぼ無いであろう私としては上位区画とか言われてもそんな物よ』


『それなら今回の報酬でノエルの価値を引き上げて鉱石の一つに加えましょう』


『とは言っても今回の依頼はさほど難しい物ではないのよね…』




 ノエルが集合地点に到着すると既に数名のシーカーや警備業を本職にしている者達が集まっていた。


 シーカーと言うのはそもそもモンスターをメインに倒すものではなく異物を集める事がメインである。シーカーオフィスでモンスター素材の買取やモンスターとの戦闘がある為間違われやすい。

 戦闘と言う一点においては企業所属の戦闘部隊の方が圧倒的に戦闘の機会は多い。それでも会敵頻度に差はあれど戦闘が多いの事実であるため本職ではないとはいえこう言った大型のモンスターに賞金が掛かった場合はチームを組むこともある。



「おっ、ちゃんと来たか。」


 ノエルを発見したサトナガがノエルに声をかけた。既に装備を整えており重機関銃と高性能な強化服を装備していた。


「そりゃ仕事だしちゃんと来るわよ。依頼として受けた以上責任問題になるわ」


「そりゃそうだ。それにしても…結構強くなったんだな。どちらかと言えば対人戦闘に…か?粛清者から漏れ出してる殺気に近いものを感じるぞ」


「粛清者を見たことあるの?」


「あぁ、ある。だが…あれは近づきたくもない物だな。一体何人ぶっ殺せばあんな気配を垂れ流せるんだか…」


「それは置いておいて…作戦準備は出来てるの?」


「あぁ、勿論だ。この作戦のために碌に使うことも無さそうな爆薬を買ったんだからな。そっちこそ狙撃ばっかりで近接戦下手になってないだろうな?」


「全く問題ないわ。剣の腕も鍛えているもの」


「そいつぁ良かった。ほら、嫁が来たぞ。仲良く準備でもしてな」


「嫁?…って、あぁ」


 ノエルがサトナガの指した先を見るとノエルに向かって手を振るリーナの姿が見えた。しっかりと装備を整えており手には今回の作戦で使用する配布物を持っていた。


「おはようノエル、サトナガ。何の話をしていたの?」


「ちょっと世間話だ。それとお前がこいつの嫁って話」


「私がノエルの嫁?」


 ノエルに配布物の急速高熱化反応薬を渡しながらリーナは怪訝な顔をしながら答えた


「別に女同士ってのも別におかしくは無いだろう?」


「私にとってノエルは…妹みたいなものね。」


「まぁ、何でもいいさ。からかいくらいの気持ちだ言った言葉だからな。気にすんな」


「じゃあとっとと出席確認に戻ったら?」


「はいはい。分かったよ」


 一連の話をノエルは終始黙って聞いていた。ノエルは記憶喪失であり、現在もその記憶は戻っていない。ノエルにとって家族と言うものは分からず、愛情と呼べるものを受けたことも無ければ与えたことも無かったからだ。


「どうしたの?ノエル」


 少々物思いにふけっていたノエルにリーナが声を掛ける。その声で現実に引き戻されたノエルは思考を破棄し、直ぐに返答した。


「いや、何でもないわ。急ぎましょうもうすぐ時間だわ」


「そうね、この薬品の説明もしたいし」




 樹海と呼ばれるエリアが存在する。マガツから見て南に下った場所であり広大な範囲を占める森だ。

 そこには異界の人類が住み、主にレイブン財団が交流を深めている。樹海のモンスターは基本的に生物としての形を保っていることが多いく。性質としても生物の延長線上のような物ばかりだ。


 今回の呼称名キャラバンキメラもそう言ったモンスターの一体だった。体から銃器が生える訳でも、|人工斥力場発生装置《アーツリパルシブフィールドが搭載されている訳でもない。それでもこのモンスター達は賞金を懸けられるほどの強力なモンスターなのだ。


 このキメラ達は幾つもの昆虫の特徴を残したまま巨大になっている。小型の個体・大型の個体・超大型の個体が現在存在し、それぞれが蟻やカマキリ、蜘蛛等の特徴が見受けられる。何より特筆すべきなのはその防御力であり数々挑んだシーカー等戦闘員の武装が碌にダメージを与えられ無かったとされる。銃弾は勿論光子・粒子にも高い耐性を持っていたとの事だった。


 荒野を目的地に向けてノエル達のチームが車で進む。

 荒野仕様の車両や、軽戦車等が十数台といった具合だ。ペアもしくは一人での参加者が多くそれぞれに配布された急速高熱化反応薬を持っている。


『よーし、聞こえるか?今回の作戦のリーダーのサトナガだ。今回のターゲットは皆分かっていると思うが賞金首キャラバンキメラの大型以上の個体だ。

 作戦は各自把握していると思うが再度説明する。まずチームを二つに分け片方は対象が所定のポイントに来るように誘導と小型個体の間引きを行う。そしてもう片方が処刑場を作る班だ。各所に配布した急速高熱化反応薬とナパームオイルを設置し疑似的なオーブンのような空間を作り出す。

 今回のこのモンスターはとにかく硬い。銃弾やミサイルでは大火事になるだろう。だが幸い産廃と言われていた熱量兵器が効果的だ。元来虫には火に弱いと言われるが限度があるだろう、慢心するなよ?以上だ』


 熱量兵器が産廃と言われる原因は人工斥力場発生装置アーツリパルシブフィールドにある。ただでさえ高温では瞬殺できない事が多い機械系モンスターやそれでなくとも体を機械に置換した生物系モンスターばかりである。ただでさえ荒野では何が起きるか分からずそのような極々一部の生物にしか効果がない物をただでさえ持ち運べる物に余裕がないシーカー達に購入する者は居なかった。

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