第43話:移動都市へ
依頼開始日当日その早朝。ノエルは都市の下位区画の一画に来ていた、レイブン財団からの依頼の為だ。
そこは防壁のすぐそばで、今回の物資運搬の為か数点テントが建てられていた。ノエルの様なシーカーと思われる者も多くおりそれぞれが自分の実力に見合う強力な武装を装備していた。中には人型兵器のASを持つ者もいるようで多種多様な形状、大きさ、武装のASが待機状態で並んでいた。
指定座標に着いたノエルは早速テントの受付で手続を済ませる。端末を渡されそれを分かる位置に装着するように言われる。
「その端末がそれぞれ個々人の位置を把握するとともに連絡手段だ。噴出破損させた場合報酬から天引きされる注意するように」
ノエルが装備した通信端末は荒野仕様でちょっとやそっとの衝撃や低価格帯の通常弾程度では破壊できない程の高性能な物だ。通信性能も特定の通信周波帯域に特化されているようで特化型の通信端末として十分な性能を持っている。
既に準備も済ませて来たノエルだが忘れ物の確認もフェンリルがいる為する必要は殆どなく、軽い雑談をフェンリルとし始めた。
『ASが五機…過剰戦力っていう訳でもないのかしら?荒野をそんなに派手に移動するの?』
『”小規模な”と説明しましたがそれでもそれなりに派手に荒野を走ることになりますから強力なモンスターと戦うことになります。それこそASを個人もしくは団体で運用するシーカーと業務提携すればお互い得があります』
例えば強力なアーマードスーツつまりASを個人運用するシーカーが居たとする。そのシーカーに企業の整備場等を提供する代わりに優先的に自分の会社の依頼を受けてもらう等の事を行う。勿論そのついでにミサイルやAS用の銃や実体剣と言った装備を販売すれば宣伝にもつながる。あの有名なシーカーの○○が愛用していると言うネームバリューは大きいのである。
『ノエルもそう遠くない内にASを乗れるようになりますよ』
『異跡にフェンリルを連れて行くってやつの報酬の一つだったかしら…でも運用コストなんかを考えれば少々不安があるわね』
ノエルの稼ぎはそれ程高いわけではない。セルタス商業区異跡での稼ぎは少々大当たりで想像以上の稼ぎを生みだし、ノエルの貯金を盛大に温めたが平均的な稼ぎで言えばそれ程高いわけではない。確かに機体性能に拘らず武装も無しのメーカーの既製品ASを購入する事は容易い。だがそれはしっかり適正な運用している所謂AS乗りの機体と比べれば天と地の差が有る。それで「私はASを持ってるんだ!」なんてこの場に居る一端的なAS乗りに行った日には冷ややかな目で見られるだろう。それはそこら辺のスラムの孤児が拳銃一丁を持った程度でそこら辺の高性能な強化服を着込んで強力な装備を身に着けているシーカーに向かって「俺はシーカーだ!」等と言うのと同じだ。
『それまでに稼げるようにならなければいけませんね。ですが第四都市では戦車やASは普通ですから』
『別に私は第四都市に行って稼ぎたいわけじゃないのだけど……まぁ、良いわ。人間出来る事には限界が有るものね』
『とは言え常識外れの物体が存在するのですから。人間が人間のままASの様な怪力を手にしても不思議ではありません』
そんな事を言うフェンリルにノエルは電子の存在であるフェンリルがそんな事を言ったという事で少々驚き少し笑った。
輸送用大型車両が全ての人員を含めた荷物の詰め込みを終了し動き始めた。その車両は都市間輸送車両としては比べるも無く小型ではあるがそれでも他の一般的な輸送車と比べると大型の車両だ。その大型の車両が車両同士を連結し、列車の様な形で高速で動き始めた。
他の車等とは段違いのスピードで進み始めた輸送車両はあっという間に荒野に出た。
大型車両の中には護衛要員等のための居住エリアが存在する。ノエルにも休憩部屋が割り振られており此処で寝食を過ごすことになる。
内装はベッドとバスルームだけの部屋だった。だが兵員輸送車と割り切ればそれなりに豪華である。そもそも個室が割り振られているだけノエルは十分だった。ノエルは普段フェンリルとはナノマシーンによる身体改造を受けた脳によって通信機器を介さない会話を行っている。だが周りに人が居ない自宅等では普通に話す事もある。そう言った点でノエルは個室で良かったと思っていた。
荷物をベッドの上に置き一息ついたノエルは時間を確認してからベッドに寝転がった。防衛対象の車両へ向かうには少し時間があるとは言えこのまま眠る訳にも行かないので体を起こす。持っていたスティック状の携行食を取りながら再度今回の依頼の確認を始めた。
今回の依頼は輸送車両の護衛依頼で所定の時間車両の屋根の上にのってモンスター接近時はその撃滅。移動都市オービターに5日間滞在しその後行きと同じ車両で第三都市へ帰還する。
『何か心配事ですか?』
『そりゃあ…ね。人外の巣窟に私みたいなのが放り込まれるのよ?』
移動都市オービターには移住制限がある。それは最低でもシーカーランク50相当の戦闘能力を要求するという事だ。
シーカーにおいてシーカーランク50と言うのは大きな境界線となっている。第三都市は良くも悪くもシーカーランクで言えば50までのシーカーしか居ない。それは運用コストと見合わないからである。シーカーランク50以上ともなれば正真正銘人間とは思えない肉体を持つ者が当たり前の様に存在する魔境であり、その戦闘能力が必要とされる戦場に移っていく。つまり移動都市のオービターや最前線と言われる第四都市ソネに移っていくのだ。勿論第三都市にも少なからず強力なシーカーランク100を超えるようなシーカーやそれに等しい者は存在する。だがその者達は都市や三大企業への反逆者への抑止力として存在しているに過ぎない。もしくはただの物好きだ。
そんな戦車を強化服もつけず生身で殴り飛ばす存在がうようよしている場所に放り込まれる事が確定している。自分の現在の戦闘能力くらい把握しているノエルはその魔境に今から向かっているという事で表情はかなり暗く重い。
『観光位の気持ちで良いと思いますよ?実際観光ですからね。ちょっと背伸びして高性能な武装でも買って見ますか?』
『買うにしても近接武装で粒子剣が良いわね。シラカバネは副武装って感じだからCSS亜高速粒子刀の代わりになりそうな物が良いかな』
フェンリルとの雑談をしているうちにノエルの担当時間が近づいてきた。ノエルが遅れないように個室から出て車両の中を進む。外に出る扉を開けて器用に車両の屋根の上に上るとノエルの交代対象が見えた。
強化服の姿勢制御機能と接地力強化を活用して風圧で吹き飛ばされないように対応する。小出力の
ノエルが大型輸送車の上で情報収集機器の情報やエルファの照準補助装置を確認し警戒を始める。車両群各車両の情報収集機器が得た情報は護衛要員にも一部提供されている。一部なのは機密に関わる情報がある為その部分は隠された情報と言う事だ。車両の情報集機器よりも高性能な情報収集機器を装備しているシーカーや護衛会社の者も情報は多い方が良いとしてその情報も索敵に活用していた。
ノエルもその情報を貰っていたがノエルはフェンリルがその情報を管理していた。ノエルも最初はやろうと思っていたが情報量に圧倒されフェンリルに投げてしまったのだ。
情報収集機器にも種類が存在する。ノエルが普段使用している製品は総合マルチロール型汎用型とも言われる多種多様な情報を収集しそれを半自動的にシステムが一つの情報に纏めるという物だ。この情報収集機器の利点は多種多様な情報収集機器を持ち歩かずに済むという点が大きい。
もう一つ情報収集機器には種類が存在する。それは特化型の情報集機器だ。音波・集音・電波・導体様々な要素を特化した情報集機器を指しそれら複数を持ち歩きそれらの情報を使用者が統合してモンスターの位置を特定する。
情報集機器にも大きさも性能も様々で、中には大型の銃と同程度の物すらある。異跡の中では音波が通じない可能性もあり電波が遮断されることもある。よってシーカーは複数の特化型情報収集機器を持ち歩くことになるか汎用型の情報収集機器を持ち歩くことになる。特化型を複数持ち歩くにしてもその複雑な情報を統合処理する技能が無ければその情報はただのデータでしかなくなる。汎用型の情報収集機器は逆に本来必要かもしれない情報を判別の際に取り零すかも知れないという弱点がある。
ノエルは普段汎用型の情報収集機器を使用して、フェンリルがその情報からモンスターの位置を算出している。今回のように数多の情報収集機器の情報をいきなり処理して索敵をしろと言われてもノエルには不可能だった。
そもそも特化型のそれも大型の情報集機器を複数台使用して戦場に出る者は多い。だがそれは他の火力要員が居るから出来る事でソロが主体のノエルには向いていない。その点をフェンリルが膨大な情報を捌ききりノエルにモンスターの位置情報を送っていた。
フェンリルが統合し最適化したノエルがモンスターの反応を確認し攻撃をしようかと思っているとフェンリルに止められる。
『どういう事?何故止めるの』
『向こうが攻撃するとは限らないからです』
モンスターには多くの種類が存在する。ロボットと言う表現が似合う機械系モンスター、生体ベースの生物系モンスター等々他にも昆虫系や植物系などあるがモンスターとは言え必ずしも|会敵必殺≪サーチアンドデストロイ≫してくるとは限らない。
例えば機械系モンスターだが警備ロボの類は該当区画に入った瞬間攻撃してくるがそれ以外では攻撃しない限り敵対しない個体も多い。セルタス商業区異跡の警備ロボなどがその最たる例と言えるだろう。
他の動物系モンスターであれば自分との戦力差を感じ取り挑まなかったり、縄張りの外なら襲わないという事もある。地の果てまで追いかけて来る事は無いという事だ。
他にも傷付き損害状況が酷ければ襲ってきたとしても車両が速度を上げれば巻くことが可能かもしれない。
『こう言った理由で例えノエルが攻撃射程内だとしても、許可がなければ攻撃してはいけないのです。もし攻撃していらぬ損害を与えた場合その責任をノエルが取ることになりますからね?』
『それは嫌ね…別命あるまで大人しくしているとしましょう』
ノエルが変わらない周囲警戒を続けていると通信が入る。
『こちら護衛要員統括スカーレット01そちらで指定対象の銃撃による撃滅は可能か?』
『こちらA013車両護衛要員のノエル。恐らく可能よ、どうぞ』
『了解した、銃撃を要請する。以上』
その通信を終えたノエルは改めて先ほどのモンスターを確認するとエルファを構えエネルギーチャージを開始する。
『結局倒すことになりましたね』
『まぁ良いわよ』
ノエルは体感時間の圧縮を始める。周囲の光景がゆっくりになり、まるで水中に居るかのような感覚に襲われる。
フェンリルの弾道予測のラインがノエルの視覚情報に上書きされ標的まで伸びる。そのラインをしっかり標的に合わせ反動で照準が狂わないようにしっかり構えている事を確認し、ノエルはエルファのトリガーを引いた。
エルファの弾丸は高速で弾道予測線と殆ど違わず命中しその莫大な運動エネルギを持ってその生物系モンスターの頭蓋を貫通した。
『どう?』
『私が補助しなければ反動で右上35Cmの所を銃弾が通っていました』
そのフェンリルの返しにノエルはため息を吐き自信を喪失する。それでも一先ず討伐報告を済ませるためスカーレット01に通信を繋げる。
『こちらA013車両護衛要員のノエルよ。ご要望の銃撃を完了し目標は完全に沈黙した』
『こちらスカーレット01こちらでも確認した。君の担当時間は間もなく終了する。交代要員が間もなく向かうから交代したまえ』
『了解』
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