第42話:警告

 ノエルの新しい銃はかなりの高威力を発揮するのは事実だ。だがかなりのエネルギーを消費する上にTSSR対物ライフルよりも連射が効かない。一言で言えばタメの長い銃である。

 勿論ノエルは幾度かの試射は行ったがこの銃は最大出力に耐えられる銃弾が少なく最大チャージに5秒かかる。その遅さからノエルはこれなら他の銃を使う方が良いと思ってた。


 実際に人に撃つまでは。


 ノエルがシーカーに超出力のエルファから弾丸を発射する。その射線上にあるものをその貫通力に物を言わせ目標に弾着させる。


『やれやれ、これじゃあもっと狙撃銃使いになってしまうわね』


『そもそもこの銃は人間に撃つように作られてません。普通の強装弾で十分機械系モンスターに通用するというのに過剰なほどの遠距離射撃性能を搭載していますから』


『過剰武装って事?』


『そうです。現在は過剰出力と言うべきでしょう。出力調整はこちらで行います、幸いこのエルファは通常の銃よりは反動が少ないのが利点ですね』


『十分あるけれどね…』


 ノエルはこの数日間アリサからの依頼であるシーカーを撃滅すると言う仕事を淡々とこなしていた。方法は特に指定などは無く、精々が建物を破壊しすぎないようにと言う注文だけだった。


 そもそもノエルは依頼が無茶苦茶な物でも無く、実現性があり。正統な報酬が支払われる場合は誰からのどんな依頼でも受けるつもりだった。現在戦闘能力に特化しているが、以前の様な荷物運びや探し物等々フェンリルの力を借りればできることは多いだろう。今回の様な依頼相手が人間では無かったとしても報酬が支払われ、十分実現可能な依頼ならば受ける事に異議は無かった。


 フェンリルはどちらかと言えば機械文明の異界の存在であり、利益となるならこだわらないのでノエルもフェンリルが止めないなら良いだろうと今回の依頼を了承した。


 ノエルが発射している弾丸は当たり前だがタダではない。特に対人口斥力場発生装置アンチアーツリパルシブフィールド弾は高額な銃弾で、一発の銃弾の代金が500万と言う高額な物だ。その金の殆どが税金であるがこれは都市に敵対しようとする者にわたる事を恐れてこの高額な値段となっている。ノエルの実力は精々シーカーランクで言えば40後半相当のシーカーにフェンリルのサポートが着いた状態で病院送りになる事を前提で勝てる程度だ。シーカーランク50を超えると最早人とは一線を書くような超人ばかりがゴロゴロいる世界である。その50を越えると都市からの一定の信用を得て装備販売会社が販売を自重している装備を購入できるようになる。

 ノエルはただ対人口斥力場発生装置アンチアーツリパルシブフィールド弾を使用できる銃を使えるようになっただけでその段階まで行ってはいない。


 現在ノエルはこの依頼の継続限界に直面している。ノエルは前述したとおり高額な銃弾を湯水のように使えるわけではない。報酬の支払われる方法はルクルムではない上に収益を回収出来るのはだいぶ先となる。そもそもエルファの銃撃でも倒せないシーカーは存在する為取り逃がすことは少なくない。追い返す事は出来ている為仕事は出来ているが最近は少々そう言った強力な装備を持ったシーカーばかりが来るようになってしまった。



『もう無理ね。いくら何でもこれ以上は今後の戦闘系の依頼に支障をきたすわ。帰りの戦闘の可能性を考えれば特にね』


『同意します。暫くは大規模な戦闘は自重しましょう。せめて弾薬費が依頼主持ちでないと怪しいです。それにノエルはナノマシーンの補給もありますからね?家に帰れば直ぐに投与しましょう』


 ノエルが使用しているナノマシーンは高性能な物である。当たり前だが激しい運動を行えば消費が激しく、補給を行わなければナノマシーンとしての機能を喪失する。回復薬の様な経口摂取可能な液体や錠剤タイプならノエルも持ってこれるだろう。だがノエルが使用している身体能力強化ナノマシーンは首筋に注射するタイプである。体の一定ヵ所にに貯めておけるようにすれば長期間ナノマシーン補給を行わなくて良いが、ノエルはオーダーメイドの強化服を作る際にそう言った身体変化を要求しなかったしそもそも知らなかった。


 ノエルの体はどれだけ体を鍛えようとも筋肉らしい筋肉が付かずにいる。そもそも一か月半ほどしかシーカーや便利屋として活動していないので筋肉の付きにくい体質とも考えられたがそれでも身体の変化が殆ど無かった。



 この数日間拠点として居たオオミダイ病院に帰ってきたノエルは早速帰宅の準備を始める。並行してフェンリルがアリサに今回の依頼の終了を説明する。

 状況が状況である為アリサも「素手で挑め」等と言う訳でもなく了承した。そもそも依頼の期間はノエルの裁量も大きい為、今回の依頼はノエルなりの誠意と義理の範囲で出来る限りの努力をした。

 それらの事を踏まえアリサはノエルは十分な仕事を果たしたと判断しノエルに幾つかの病院内の備品を渡した。


「ではまた、余裕が生まれたら来たまえ。これは弾薬等の費用の代わりだ。ある程度の補填になると聞いたがどうだろう?」


 そう言ってアリサがノエルに渡したのは幾つかのキューブ状の電子端末と思われる小型の物が数点だ。そしてノエルが屠ったシーカー達の遺品の中でまだ十分使えそうな装備等が入ったトランクケースもある。

 それを見たノエルはおおよその金銭換算を行い、フェンリルと目線で十分補えると判断するとそれを受け取った。


「一応これは経費ってことで良いのかしら?」


「構わないよ?これくらいはタダみたいなものさ」


 ノエルはこの数日でアリサとそれなりに友好な関係を築くことが出来た。主に荒野の様子や都市の事について等の情報を話した程度だがアリサはかなり真剣に聞いていた。その際に敬語は不要と言われたノエルは次第にタメ口を話すようになりなった。それでもノエルは依頼人と依頼を受けた者としての礼儀は守っていた。


「じゃあ、ありがたく。今後ともご贔屓に」


「あぁ、また何時でも来たまえ。私は暇だからね」


 別れの挨拶もそこそこにアリサは病院の奥に戻っていった。ノエルも今生の分かれでも無く仕事でまた此処に来ることになる為そう感情的にも無くノエルは病院を出た。




 ノエルが家に帰り幾つかの補給などを済ませ、貰った異物や遺品等をエイリスに売却する物を売却し終わった頃には遅い時刻となっていた。

 丁度入浴を終わらせた所でノエルの携帯端末に通知が入る。フェンリルが通知の文章をノエルの視覚情報に上書きする。


 ノエルがその内容を確認し依頼文を読もうとする。だがその前に送り主の時点で少々驚くことになった。


『レイブン財団…?何でまた』


 依頼内容はちょっとした運送依頼だ。運搬用トラック等を数人のレイブン財団職員の護衛兼運送が主な依頼内容だった。


『恐らくノエルが少々派手にやりすぎた為でしょう。ある意味での警告…いえ、注意勧告もしくは無差別にやったのかの確認であり敵対者であるのかの確認でしょう。特に難しい依頼でもないですし、状況的に断る訳にもいきませんね』


 シーカー都市機構の一員である。シーカーの正式名称は『都市所属異物捜索者』である。シーカーはその人格や性質も様々でシーカー同士での殺し合いもある。だがシーカーを狙って殺す者は盗賊と変わらない。シーカーも武装した盗賊と言えるがそれはこの世界の人間からすれば廃墟探査と差は無いだろう。都市の末端の更に末端の職員と言えるシーカーを大量に虐殺しようものなら都市としての機能が著しく低下する。都市は異物を回収しそれを買い取り経済を回す社会構造をしている。シーカーが減れば入ってくる異物も減り、入って来る異物が減れば現在の社会構造が危うくなるだろう。


 三大企業及びその傘下の都市機構維持局はシーカーどうしが異物の取り合いなどで少々小競り合いで殺し合うのは黙認する。勿論シーカーの倫理観を考えればそう言った事は無視できないのは確かだが日常茶飯事すぎるため黙認されているのだ。それでも狙ってシーカーを殺す盗賊は都市や三大企業それでなくとも普通の大企業からも賞金をかけられる事になる。

 そんな目にあえば都市では生きて行けなくなる。少なくともルクルム経済圏および制空権が確保されている領域では生きて行けないだろう。


 依頼を受けることにしたノエルは早速詳しい詳細を確認し始めた。今回は少々長期の依頼であるようなのでその辺の日程表等を確認も兼ねている。今回の依頼主はレイブン財団ではあるがフォルテノからの依頼ではない、初めての依頼者と言って良い相手だ。誤解などが生まれないようしっかり擦り合わせも行わなければならないだろう。


 依頼者とのメッセージでのやり取りを済ませたノエルはオファーの背もたれに体重をかけ、天井に向かって吐息を吐く。


『移動都市…ね。あまり良い記憶は無いのだけど』


『その言い方ですと行った事があるのですか?』


『以前似たような依頼を受けたことがあったのよ。その途中で大量の生物系モンスターに襲われたのよ。その時はただの助っ人みたいな物であまり戦力にはなっていなかったしね』


『今回は大人数ですし、整備済みのニ脚などの戦力も最悪ありますし十分な警備隊も同行しますからある程度なら問題ないでしょう。それにただの運送トラック数台ならそこまで大規模な補給では無いようですから小規模な輸送なのでしょう』


『これより大規模な都市間運送ってあるのね…』


『えぇ、移動都市は都市間を行き来する関係で小規模な補給も簡単に出来ると思いますが第四都市等にはかなり大規模な掃討戦をしないと不可能でしょう』


 フェンリルとの雑談を交えながらノエルは新しい依頼の準備を進める。そうしている間にも夜は更けて行った。

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