第41話:オオミダイ病院

 管理人格と言う存在が異界の異跡には存在する。その管理人格は基本的には自分の領域を侵す者であるシーカーに対して敵対行動をとり殲滅行動を行う。

 管理している領域の規模や、担当している業務等でその管理人格の演算規模や得意分野。自動人形を使う場合戦闘能力にまで多種多様となる。

 一例を上げるならばフェンリルは。軍事基地を管理し兵士の戦闘能力の補助を行う事がメインとなる。よってそう言った空力演算や重力変動などの演算を得意とする。ノエルの思考演算領域を一部占有し、外部機器のメモリーを独占する事で演算リソースを上昇する事も可能だ。


 そもそも現人類は管理人格と直接の敵対をしない様に立ち回ることが多い。可能なら取引をしようと立ち回る程だ。それは何故か?大抵の管理人格は自分用の超高性能な自動人形を複数保有し単騎で都市を滅ぼせるからだ。人と同程度の姿でAS部隊を軽く吹き飛ばすと言われるその性能はフェンリルも証明した。


『可能です。恐らくそれは我々の使う自動人形の一体でしょう』


『そ、そう…』


 装備の新調を終えてエルファ以外の銃を持って来ていないノエルは多数の粒子刀を装備し。アンダーテイカーの迷彩機能をフル活用して異跡の奥を進む。

 この領域はセルタス商業区異跡の西側だ。此処には店舗ではなくビルのような建物が多く、その領域の大通りを進んでいる。

 その大通りの先が今日のノエルの目標地点だ。一際目立つその建物はそこら辺にあるビルよりも大きく、都市総合病院と同じ広さの規模の異界の病院だ。


 この周囲の領域は清掃ロボットがしっかりと掃除を行い荒れることも無くまるで都市の防壁の中にいるような感覚に襲われる。



 しっかりと機能していると思われる病院の、駐輪場と思われる場所にバイクを停車すると迷彩機能を解除して中に入る。


 病院の中は電気こそついていない為薄暗いが清潔で、オオミダイ住宅街異跡の様な荒れ果ててはいなかった。


 ノエルがアームマウントのシラカバネを何時でも抜けるようにして、警戒しながら無人の受付ロビーを歩く。ノエルはシーカーらしくしっかりと足音を出来るだけ消して周囲を見渡すが特に何も起きることは無い。


『何も起きないわね?』


『強力な警備ロボが来られても困りますけれど』


『此処のことフェンリルは知ってたの?』


『いえ、私はあの基地で生みだされてからずっと下界と隔絶されていましたから』


『そう言えばそうだったわね』


 居ると思っていた管理人格が見当たらず。暇になったノエルは周囲に敵が居ないこともあり、病院のロビーの椅子に座って持って来ていた携行食をモソモソと食べ始めた。

 このブロック状携行食もシーカー向けの製品で身体能力を少し向上させる加速剤と呼ばれる薬が含まれており、尚且つ排泄が不要になると言う折り紙付きの製品である。

 ある程度食事にもこだわり始めたノエルはこう言った製品にも少々気にするようにしている。食事の充実は精神的余裕を与えるとされており、フェンリルもそう言った美味しい食事をとる事を進めた。食事のグレードが上がればノエル本人も自分自身に自信を持たせるきっかけになると考えたからだ。


『これ食べたら帰る?』


『構いませんよ?異物収集くらいしますか?』


『そうねぇ…しましょうか』


 ブロック状の携行食を食べきったノエルは包装を纏めてゴミ箱らしき箱の中に入れる。このゴミ箱も異物であり、持ち帰れば少なくともスラムの少年少女の数食分にはなるだろう金額で売れる。そんな考えが頭をよぎったノエルはすっかりシーカーらしい考え方になったと思い少し笑った。


 異物収集ついでに病院内の見学をしようと振り返った時だった。ノエルの視界に一瞬で女性が現れた。だが気配も情報収集機器にも反応が無かった。直ぐにノエルは全力で警戒をし直ぐに距離を取る。

 目の前の未知の存在に最大限の警戒を払い、CSS亜高速粒子刀の柄を握り抜刀の状態に入る。わざわざ光学迷彩で音も無く目の前に現れたのである、敵対者ととっても何ら可笑しくは無い状態だ。


 目の前の白衣を着た女性は黒い髪に青い瞳の20台前半の女性と見える。だがおそらく人間ではなく自動人形の類だと直感でノエルが判断した。


「あぁ、別に取って食ったりはしない。それとも戦闘好意をご所望?」


 その女医はしっかりとノエルに対してそう言った。こちらは敵対の意思は無いと表すように両手を広げて無害をアピールする。


「あ、いや…急に現れた…ので。驚いてしまったのです。こちらこそ謝罪します」


 直ぐにノエルは意識を切り替え戦闘に発展しない様に礼節を持って対応する。警戒をある程度解いてCSS亜高速粒子刀からてを離す。


「ふむ…私はオオミダイ病院の管理人格であり、この領域の統括管理人格であるアリサです。本日の訪問理由をお聞きしても?」


 アリサと名乗った管理人格はひとまずノエルに笑顔を見せて自己紹介をした。

 どうやら自分の対応は間違っていなかったと内心ほっとしながらも対応を続ける。


「まずは自己紹介をさせていただきます。私は便利屋をしておりますノエルと申します。私はとある義体を保有しているのですがその義体への乗り換えです。どうも現代医学では難しいようなので」


『では、ここからは私が対応しましょう』


「おや、これは驚いた。フェンリルを連れているとは。どこぞの軍事基地に配備されたと聞いていたが」


『それは今は良いでしょう?要望を纏めてありますからそれを見てください』


「やだやだ、軍隊関係の人格は何でこうも硬いのかねぇ」


 そう言いながらも送られたデータを確認したアリサは少し考えたような素振りの後直ぐに結論を出した。


「いいでしょう。これでノエル君は今日から私の小間使いだ」


 そう言われたノエルは首を傾げ、フェンリルと顔を向き合わせる。

 フェンリルとは今日此処に来る前に意見のすり合わせ等を済ませているため伝達ミスがあったとは思えない。


「あの、日雇いって条件だと思うんですが…」


「もちろんだよ?ただ用があれば来てもらう。具体的には地域清掃作業だねぇ。その腰にある銃でそこら辺に居る歩く生ごみを撃ってもらう。勿論ノエル君は私の権限でこの領域の住民権を持っていて私の代行者にしておけばいい。そうすれば警備ロボに襲われることも無いさ」


『言い方は兎も角として…悪くないと思いますがどうですか?報酬はドルで支払われますし便利屋として異界で客をとるようなものです』


 急にフランクになったアリサに少々困惑しながらも内容について自分でも考える。

 反対者も居なくなり、実際この仕事は美味しいものである様なので断る理由も無い。アリサからの圧もあり了承する事になった。


「分かりました、その条件で受けましょう」


「これで君は永遠に私の小間使いだね」


「不定期で、しかも義体手術が終わるまでですよ。その後は応相談です」


「まぁ、とにかくだ。君の性能試験もかねて今からシーカー?を撃滅してもらう。方法は街を派手に壊さないなら好きにしたまえ」


 そう言ってアリサは高性能な自動人形の力に物を言わせてノエルを病院の出口に出した。

 その機体性能に少し恐怖を覚えたノエルだが。なぜこれほどの性能を持つ自動人形が有るのに自分でやらないのかを疑問に思った。

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