第40話:玉を懐いて罪あり
リーナ達とのセルタスモールでの異物収集から数日後、ノエルはカスケード工房に来ていた。注文していた装備が全て完成したと言う連絡を受けた為だ。
ノエルはこの数日間を都市から一歩も出ずに過ごしていた。主にフェンリルとの戦闘訓練や座学の時間が大半だった。
ノエルは別に銃や強化服に詳しいわけではないしそこまで詳しく知ろうとも思っていない。とは言え観察眼は鍛えたいと思っているのでぱっと見の戦闘能力分析くらいは身に着けようと考えすっかり行きつけとなったカフェでそう言った事を勉強していた。カフェを通りがかる人物をシーカーランクで言い当てるという事をゲーム感覚で行っていた。
そんな飽きの来ることも終わったノエルは新しい玩具を買ってもらう直前の子供のような気分で、人やモンスターを穴あきチーズどころか消し炭に出来る銃と戦車を腕一本で吹き飛ばせる強化服を貰いに来た。
一人でカスケード工房にやって来たノエルは早速工房の扉を開けて中に入る。
中は相変わらず色々な匂いが混ざり合ったような空間だった。だが今日はどうやら消臭する異物を買ったのか置いているようでそこまで、きつい匂いではなくなっていた。
「私の装備は何処!?」
そんな事を気にすることなくノエルは入って真っ直ぐカスケードの元へ行くとそう言った
「開口一番それか…」
休憩中だったらしいカスケードは湯呑をテーブルに置くとノエルを奥に案内した。
「奥に完成品がある。ついて来い」
カスケードは工房の奥にノエルを連れて行くと、エレベーターに乗せ地下に連れて行った。
カスケード工房の地下には通路が二つに分かれて一方には白一色の100×100×100m程の空間が存在し、もう一方には電子ロックの扉があった。電子ロックの方はどうやら装備の保管庫だと想像出来る。
「そこで待ってろ。今装備を持ってくる」
そう言ってカスケードは電子ロックの厳重な扉の向こうへ消えていった。
数分後戻ってきたカスケードの手には二つのアタッシュケースがあった。両方とも大型のアタッシュケースでその両方をノエルに渡してノエルを白い空間へ案内した。
「大きい方が強化服だ、更衣室は無いから此処を閉める。10分後開けるからそれまでに着ろ、着方はお前の情報端末に送っておく。別段着るのが難しい部類の強化服ではないはずだ。もう片方は銃だから強化服の後にしろよ?下手に説明前に使って穴開けられたらたまったものじゃないからな」
言いたい事を言い終えたカスケードが端末を操作すると重厚な隔壁がゆっくりと閉まった。
アタッシュケースの大きい方を開けると中には黒い強化服が入っていた。一先ず言われた通りに情報端末に送られている着方の通り着用してみる事にしたノエルは。早速服を脱いでフェンリルの手も少し借りて着用する。
確かに特に苦戦することも無く着用し終えたノエルは、フェンリルが映し出した自分の現在の姿を見て一応自分なりにおかしな所が無いかを確認する。
ノエルが着ている強化服はノエルの体にしっかりフィットし、体の輪郭をこれでもかと強調させているが迷彩コートを使用したスカートの様なものと外套がノエルの体を隠していた。その姿を一言で表すなら幽霊だろう。
『結構ひらひらとして動きにくそうだけど…以外とそう言う訳ではないわね』
『ノエルの動きを邪魔しない様になっていますからね。関節可動域等も含めて多種多様なデータを取っただけの物です』
ノエルが簡単に柔軟運動ついでに強化服の可動域確認をしていると白い部屋の扉が開き部屋の中にカスケードが入ってきた。
「着替え終わったな?此処なら簡単な性能テスト位できるはずだ。あまり派手に暴れられても困るが走ったり飛んだり位は問題ない」
カスケードが中に入ると端末を操作して再びその重厚な扉を閉める。
「何と無く分かるけど…此処は?」
「装備の試験場だ。つってもお前らが本気でやれば普通に壊れるから手加減はしてくれよ?」
ノエルは早速軽い戦闘訓練くらいの感覚でパンチや足払いを繰り出し使用感を確かめる。
「動きやすい…他とは段違い」
「そりゃそうだ。VSRV特殊強化服、銘はアンダーテイカーだ。コートとほぼ同じ性能を強化服全体で発動できる上に、要望通り
早速
「想像以上ね!まさか重装強化服相当の斥力場を出せるなんて」
「その分消費は激しいからな?気を付けろよ。ただお前は平均出力よりも瞬間出力を優先する変人だから使いこなせりゃ心配はしないがな」
一通り確認が終わったノエルはもう一方のアタッシュケースを開け始める。
中に入っていたのは大きな箱だった。これも黒一色だが所々に白のラインが入った物だ。
「それがご要望の強力なTSSR対物ライフル系統の銃だ。今は収納しやすい様に四角いがちゃんと変形して銃になる」
その言葉通りノエルが手に持って見るとノエルの視覚に変形操作するかどうかの表示が入る。
変形したその銃はしっかりと大型の銃の形となり、独特の形状こそしているが異界の銃と言われれば十分信じられるだろう。2m近い長さのその狙撃銃を何とか腰だめに構えて弾倉に銃弾が入っていないことを確認してからスコープを覗く。
「GXMSR複合電磁加速対物狙撃銃。固有名称はエルファ、レールガンモジュールとコイルガンモジュールを複合した対物狙撃銃だ。ほぼ全ての弾丸を撃ちだせるがフルパワーに耐えられる銃弾は少ないから注意しろ」
見た目よりも重量のあるその銃はノエルの筋力をもってしても両手で持つのが精一杯の超弩級の大物銃だ。
「既に監視者からの許可は下りてる。お前がどれだけ都市や企業に貢献してきたかは知らんが。その銃は本来お前が使用不可能な制限武装だ、気を付けてくれよ?」
「え、えぇ」
「あ、ここでそれをぶっぱなすのは勘弁してくれ。壁が耐えられないからな?その銃は
これでもかと言う忠告を聞き終えた後、再び長方体に戻し腰にあるマウントにセットする。
「収納系の異物を持ってないのか?」
「収納系?」
「何でも入る手袋だよ。上位のシーカーなら殆どが持ってる。とは言えあれは産出量が少ないからな」
ノエルがそんな物が有るのかと思っているとフェンリルから補足が入る
『四次元的収納器官ですね。似たような物ならノエルもよく使っていますよ?』
『あぁ、拡張弾倉ね?成程納得したわ』
「まぁ、必須って訳ではないがあった方が断然良い、リュックを持ち歩く必要が消えるからな」
ノエルが装備の受け取りも終わって、帰ろうとした時だった。カスケードに呼び止められる。
「あ、忘れてた。腕の一体型アームマウントにはおまけの武装がある。剣も使うんだろう?その装備作った残りの金額で安く買っておいた、良かったら使ってくれ」
アームマウントを確認すると、言われた通り二対の刀身の途中で切れたような物が入っていた。
「折り畳み式近接戦闘用亜光速微粒子刀名前は確か…シラカバネだったはずだ。通常の製品より粒子が細かいから切断性能が高いらしい、精々おまけだ」
「ありがとう、使わせてもらうわ」
今度こそノエルは完全に新しくなった装備を纏って工房を出た。
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