第44話:ラストエリクサー症候群
ノエルが担当分の警戒時間を終わらせ、自分の部屋に戻りベッドに寝転がる。
『何だかんだ疲れたわね』
朝から軽い息抜きを挟みながらとは言え長時間警戒を一人で続けていたノエルは目に見えて疲労していた。本来少人数とは言え複数人で警戒するのが普通の依頼だがそれをノエルはフェンリルのサポート有りとは言えノエルの体力を削っていた。
『もうすぐ食事の時間です。その前に入浴を済ませますか?』
『そうね。戦闘らしい戦闘は幸い無かったし。出来れば湯船に浸かりたいところね』
軽度の体の疲労を経口摂取の回復薬を飲み疲労感を無理矢理解消する。
『贅沢な悩みですね?精々兵員輸送車に湯船ですか?』
『分かってるわよ。私の身の程位は』
『本格的な都市間輸送用の大型輸送車であれば客室などもあるかもしれませんね。何せかなりの大きさの様ですよ?』
『この運送車両も普通のトラックとかと比べればかなり大きいわよ?』
『確かにそうですがこの車両よりも格段に大きいです。ノエルは都市に住んでいるのに見たことが無いのですか?』
『私目覚めたの四月の初めだったのよ。それに記憶喪失で碌な知識無いから』
『なら何時かは見れると思いますよ。定期的に運航していますから』
『それじゃあその時を楽しみにしておくわ』
回復薬の効果が発揮され始め疲労感が消えたノエルは強化服を脱ぎ始める。そのまま持って来ていた荷物から下着などを持ってシャワールームへ入っていった。
シャワールームは掃除が行き届いており。カビも汚れも無い綺麗なシャワールームでホテルのシャワールームの様に綺麗なものだった。
長い髪をシャワーの水で湿らせながら手櫛で軽く|梳す≪とかす≫。全身の筋肉の緊張がお湯でとけていくのを体感しながらノエルがシャワーを進める。
ノエルはあまり美容などを気にしない、最低限体を洗えば良いと考えている。その為適当なボディソープとシャンプーを購入して使用している。戦闘でその髪が日光で反射するとしても、髪が揺れ邪魔になるとしてもノエルが髪を染めず、切らないのは以前にエイリスに切るのを止められたからだ。幸いコートを着ていることが多かった。その髪が揺れる事も少なかったし日光が髪で反射する事も無かった。
しかし、最近は頭部を
「染めようかしら…後バッサリ切るとか」
ノエルが長い髪を指先でクルクルと巻き取りながらそう呟く。
『そうですか?現状邪魔になっているわけでもないですし問題ないですよ。少し前の戦闘で胴体を切断された際一緒に切れましたから前髪を少し整えるくらいでよろしいかと。多少伸びて今は腰くらいですし丁度良いですよ』
『戦闘に影響がなくて他人から見て悪くないなら良いかしらね。そこまで不満が有る訳でもないし』
入浴等を済ませたノエルは自動修復が終了した強化服を着込むと食堂車に向かった。
この大型車両群には二台の食堂車が随伴している。多種多様なシーカーや護衛会社がこの依頼を受けており食事の配給を配るよりも食堂車を一台用意した方が楽であり費用も軽減することが出来るためだ。
食堂車両はその巨大な車両丸々一つが食事提供の為に使用されている。最低限の手動運転用の操縦装置のスペース以外は殆どが調理場とテーブルが占める。その食堂車は立場などを無視した大多数のシーカーやエンジニアと言った乗組員の半数が座り切っても余る程の席数がある。提供される食事は値段も種類も様々で数多くの利用者の味覚と財布に合うメニューとなっている。例えばただのステーキでも格安の合成肉から100g5万ルクルムと言った高級肉も存在する。勿論使用されている調味料もそれ相応の高級でかつ値段相応の至福の旨味を食した者に与えるだろう。
食堂車に着いたノエルは自分の場所を確保すると直ぐに食事を注文する為テーブルに設置されていた発券機能付きの液晶端末を操作する。その中から幾つか注文をリストに入れて案内に従って入金をするとそのリストにチェックが入り数字の書かれたシートが端末の排出口から出てきた。裏には注文した料理のリストが記載されておりいたって普通の紙で出来てる。
その紙を眺めたりフェンリルと話したりしながらテーブルで暫く待っていると、自動配達のロボットがノエルのいるテーブルに料理を持って来た。並べられた食事を確認し食券を配達ロボットに渡す。するとそれを確認したロボットは次の料理を次の配達先へ運ぶため離れて行った。
『あれどういう仕組みなのかしら』
『簡単な仕組みだと思いますよ?インクを検知しているのかもしれませんし何かしらのチップがあの食券に組み込まれているのかも知れません。いくらでも可能性はあります』
『情報収集機器みたいなものかしら?』
『それは目の前の食事を冷めさせるより重要な事ですか?』
『それもそうね。そこまで興味が有る訳でもないし』
ノエルが黙々と食事を進める。実際にはフェンリルと念話で話ながら食事しているわけだがそんな事分からない他の連中からすれば一人で黙々と結構な量の食事を食べる少女の図である。ノエルは人間の中では美形だが美醜を気にする者はこの場には少ない。
なざなら医療技術の進歩に伴いその肉体の形がそもそも筋肉で出来ているのか化学繊維で出来ているのかすら詳しく検査しなければ分からないからである。もはやテセウスの船やスワンプマンの様にアイデンティティや人としての曖昧な死生観や倫理観等で人間の形は様々と言える。金さえあれば脳すら取り替える事が可能な現代医療技術において美という物は作れてしまうのだ。勿論そこまでの美を手に入れるには何億ルクルムと言う金額を掛ける事になるであろう。だがこの食堂車に居る者達は大なり小なり死線を潜り抜け億単位の金を装備につぎ込む者達の巣窟だ。そう言った美容に力を入れている人間などある程度見慣れてしまっていた。
食事を終えたノエルが部屋に戻ると扉の前に荷物が置かれていた。レイブン財団がよく使う運送用の使い捨てケースだった。メッセージがそのケースに添付されておりそこには狙撃に対する特別報酬と今日の分の補給が入っているとの事だった。
『狙撃って…そんな特別報酬をもらえる事だったかしら?』
『さぁ?分かりません。無駄な戦闘が発生しなかった事を考えたらそうなったのかもしれません』
置かれていた補給品等の入ったその箱を回収し部屋に戻ったノエルは早速その箱を開封していく。支給された端末を翳しロックを解除すると中に入っていたのは基本的にノエルが使用し、支給するように要求していた弾薬と汎用エネルギーパックだった。
ただ一発分だけ高純度の
『確かに高級品の弾丸…制限下の私が買おうとすればいくらになるか分かったものではないわね』
「折角だから貰っておきましょうか」
折角手に入れた手に入れた奥の手の一つとしてノエルはしまい込んだ。
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