第32話:セルタス商業区異跡
第三都市を北に行った領域にはオオミダイ住宅街異跡がある。この遺跡はある程度徒歩で向かえるため新人のシーカーが良く居る。この更に北部には違う異跡が広がっている。この異跡は以前レイブン財団の実験装備部隊が警備ロボらしきモンスターを相手に戦闘を行っていた。あれは異跡同士の境目であったがその当時のノエルの技量では御しきれないほどの戦闘能力を有していた。
この北部の遺跡は南部に行くほど強力なモンスターが居るというセオリーと逆である。正確には北部に強力な警備機体が居るという区画がある。立体的なこの異跡セルタス商業区異跡は少々高難度な異跡として知られていた。勿論この第三都市の周辺の中ではであるが。
複雑な立体構造のこの異跡に挑みに来たノエルだが迷彩コートを多用する事で警備ロボをほぼ無視する事が出来ている。ノエルは銃を始めた装備を迷彩コートで包んで居るのだ。一見意味の分からない行動だが勿論理由がある。
『ねぇ。フェンリル私達何で襲われないの?』
『私達の異界においての法律がこの異跡では適応されている様子です』
『適応って…警備ロボなんだからそうなんじゃないの?』
『違います。この領域は何者かによって統治されています。エラー個体では無く明確な上位者が存在しその者がこの領域でその法を破った人間を攻撃しているのです』
『管理人格ってやつ?』
『恐らくそうでしょう。商業区画だけとはいえ管理人格です敵対は避けましょう』
管理人格が敵になるという事は。以前の都市防衛戦やフェンリルの様なものからサポートを受けた存在と戦闘をするという事だ。
『じゃあどうやって異物を収集するの?』
『私が何のために迷彩コートをノエルに送ったと思っているんですか?こういう時の為ですよ。取り合えず警備が薄そうな箇所に忍び込もうと考えています』
そう言ってフェンリルは一か所の店舗の脇にバイクを操作して駐輪した。
『此処なら立地的に警備ロボの死角になりやすいです』
フェンリルが止めた場所は複雑な立体構造の場所でも特に死角になりやすい場所だった。
『手早く済ませましょう』
迷彩コートを目深にかぶりしっかり体を隠す。店内の商品を物色し始めたノエルは高額買取されそうなものを中心にリュックに詰め込んでいく。
『やっぱりこういう端末とかが人気あるのかしらね?』
そう言って引き出しから出したのは幾つかの携帯端末だ。それを綺麗にリュックに入れていく。
『人気と言いますか。企業は異界の技術情報を吸収したいのでしょう。その為にそう言った情報端末は都合がいいのだと思います。なので需要が大きそうな物をエイリスに持ち込めば高額買取してくれるかも知れません。工業製品があればクズハラモーターズのおやっさんが高額買取してくれるかもしれませんから』
『なるほどね、そう言うのも探してみましょうか。とは言っても此処はもうそんなに残ってないかな…他に行きましょうか。これで結構な稼ぎになるかしら?』
『そうですね。一部でも1億は超えるかもしれません』
『え!?そんなに?』
『この店舗は今で言うところの情報端末専門店だったのでしょう。とは言え取りつくしてしまいましたのでもう此処は駄目ですね。大規模な店舗なら商品が補充される可能性もありましたが、此処は精々下請けの業者だったのでしょう』
『そ、そう…』
店舗を出たノエルはそのままフェンリルの指示のもと別の場所に移動を開始する。今度の移動先に行く前にフェンリルからTSSR対物ライフルを出すようにノエルは言わた。
『銃を出しちゃ駄目なんじゃないの?』
『駄目ですが出しているところを見られなければ良いのです。少々大きい場所を狙いましょうか』
そう言って向かった先はこのセルタス商業区異跡の最上層だった。最上層は荒野の砂塵の舞う光景とは打って変わり青空が美しく、所々点在する街灯やオブジェが此処が危険な荒野であることを忘れさせる。そんな中をバイクを降りたノエルは銃を構える。此処は荒野で異跡だ、その意識を持つシーカーにとってはこの光景さえ明日には更地になっているかもしれない光景なのだ。そんなものに見とれていれば暴走した生物系モンスターに襲われ兼ねない世界だ。
『この先に見える大きな建物。その周辺にいる強力な機械系モンスターを此処から狙撃しましょう』
ノエルが覗くスコープの先には二足歩行して周囲を警戒する8m程の大きさの機体が5体周囲を巡回していた。足だけは人間とカエルを足して割った様な形状で全高の8割りを占めておりその上部には大型の機関銃を搭載していた。
『狙うべきは中枢基盤です。強調表示するのでしっかり狙ってください』
『了解』
ノエルが集中し体感時間が徐々にスローになっていく。無理なく体感時間が遅くなった世界でノエルがトリガーを引く。フェンリルの補助をしっかり受けたTSSR対物ライフル専用弾はしっかりとその中枢基盤を捉えていた。それでノエルは次の警備ロボを狙おうとした時だった。
『まだです。そのまま第二射を!一発では倒せません!』
そのフェンリルを信じ再びノエルは今度は余分に2発を同じ場所に連続で撃ち込んだ。そして一発目が着弾した際に警備ロボの周辺に空気の膜の様なものがノエルの銃弾を弾き飛ばした。その後直ぐに二発目の専用弾がその膜に着弾し拮抗した後最後に放った弾丸が拮抗していた状態を貫通し中枢部分を撃ち抜き50Cmほどの大穴を開け機能を停止した警備ロボは倒れ伏した。
『
『そうです。一発目で出力減衰し二発目で拮抗し三発目で貫通できましたね。残りもこの調子で倒して乗り込みましょう』
『分かってたなら最初から言ってほしかったわ…』
『解析が間に合っていなかったのですよ。ですが可能だと判断しました』
そのままノエルは先ほどとほぼ同じ方法で警備ロボを狙撃し全ての警備ロボを屠った。
『此処はノエルと相性がいいですのでまた来ましょう』
『それは中の異物次第かしらね』
『あの警備ロボは正面から戦うにはかなりの技量が要求されます。恐らく中にはまだ大量の異物があると思いますよ』
そんな話をしながらノエルは早速バイクでそのショッピングモールに向かって走り出した。
バイクごとショッピングモールの中に突っ込みハイベクターを構え周囲を警戒する。性能も以前の情報収集デバイスよりも上位機種である。その性能をフェンリルの能力を遺憾なく発揮して周囲のモンスターを始めとした動体探知を行う。
『クリア。モンスターもシーカーも居ないようです。マッピングと探知は私がやりますので異物捜索を進めましょう』
『了解、一応手早くいきましょう』
ノエルは周囲の警戒を維持したまま、ハイベクターを仕舞ってCSS亜高速粒子刀を何時でも使用可能な状態で一階の探索を開始した。
『セルタスモール…ね。そのままじゃない』
一階にある壁紙を見てノエルがそうつぶやく。フェンリルが苦笑いするが何も言わずそのままノエルの周囲を漂う。
このセルタスモールの一階は食料品売り場だ。食料品は品質維持機能がついていると思われたが流石に風化しもはや何だったかすら分からないほどに崩れていた。
一階を軽く探索したノエルだがやはり大したものは無く、食品棚を持って行こうにも車両は持っていないノエルは早々に諦め二階へ行くことにした。二階へ行くにはエレベーターと階段があるがエレベーターは何が起きるか分からない為階段で行くことを選んだ。
二階はドラッグストアのようで大量の医薬品が転がっていた。早速ノエルは回復薬と思われる商品をリュックに詰めていく。
『これだけでも来た甲斐があったわね!』
『回復薬は売らずに自分で使いましょう。売るよりもノエルが自分で使った方が効果的です』
『そうね、やっぱり異物の回復薬を使った方が回復効果が段違いだし』
そう言いながらリュックに詰め込んだ。
ノエルは再び周囲の探索を再開した。そこで一つのガラスケースに飾られた物体を発見した。
『ねぇフェンリル。あれ何?』
『ワイヤレス半永久義体…人間の半永久的な生命活動を目指した義体…との事です。使用者の肉体のデータを保存してこのナノマシーン義体がその肉体と同化する。そして有機物であれば吸収分解して肉体を再構成すると』
『へぇ。これ開けられないの?エクシウムは有機転換炉?あるのでしょう?エクシウムを埋め込めば出力アップもできるかも知れないわ』
『空けることは可能だと思いますが。恐らくその義体をノエルに適応させるには相応の医療施設の異跡で。しかも今も機能しているものが必要です。近くに医療施設はありますが今のノエルの装備では管理人格に鼻で笑われますよ?』
『そ、そう。まぁ誰かに。でも取られる位なら私が貰ってもいいんじゃないかしら?』
『それは構いませんが…ここの領域管理人格と交渉して。病院施設を使えるようにして、しかも手術費用を工面できるのですか?』
そこまで言われたノエルだが目の前の最高級のナノマシーン義体をどこかの誰かに取られるよりはいいと。防護ガラスケースをCSS亜高速粒子刀で切り裂きその義体を取り出した。
『管理人格と交渉して見るわよ…ある程度の戦闘力とフェンリルを通して交渉すれば何とかなると思わない?』
『…管理領域で仕事しろとか言ってきますよ?恐らく』
『日雇いで何とかならないか交渉するわ…』
その義体がリュックを占領している上にそろそろ戻らないと暗くなる事からその日は帰宅する事になった。
帰り道も迷彩コートの機能を活用して道中のモンスターを討伐しながら帰路についた。セルタス商業区異跡内であれば戦闘をすることも殆どないためノエルにとっては楽な異跡となっていた。
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