第31話:ナノマシーン変更とオーダーメイド

 数日後ノエルが何時も通りフェンリルの訓練を受けている。最近は特に刀を使った戦闘訓練が多い。CSS亜高速粒子刀を使った戦闘を想定されている。これは室内で行われており、粒子を纏っていない状態で理不尽に強いフェンリルを相手にしたり、以前に戦ったジンや先日の防衛戦を再現した対モンスター戦等様々な戦闘訓練を行った。強化服がない状態での訓練だが、ノエルの技量上昇には役立っていた。

 そんな訓練をしてる最中に来客を告げるチャイムが鳴る。訓練を中断したノエルは直ぐに玄関に行き商品受け取りのサインを済ませる。受け取った強化服のシステム掌握をフェンリルが行っている内に軽くシャワーを浴びる。


 ノエルがシャワーを浴び終わって戻るとフェンリルに呼び止められた。


『あぁ、ノエル。この後訓練を終了して総合病院に行こうと思います。準備してください』


「病院?何でまた」


『金銭的に余裕が生まれていますし、ナノマシーンをもっと高性能な製品に変えようかと思います。一回で100万ほどの製品にです』


「そりゃまた高級品ね」


『今のノエルの稼ぎなら十分可能かと思います』


「そりゃあ、この一か月で8桁の報酬が増えてるけど…その分危険な依頼が多いわよ?」


『それでもですよ。このノエルの戦闘能力や装備の性能の上昇速度ならそう遠く無い時期には私が依頼した異跡に挑めると思います』


「難しい場所なの?」


『そう言う訳ではありません。ただ、それなりに距離のある場所なので車やその周辺に現れるであろうモンスターに対応しきれる装備や実力が欲しいだけですね。私が居ればむしろ異跡内は安全と言えます』


「あ、そうなのね…」


 ノエルはフェンリルに言われた通り準備を整え始めた。強化服を着込んで、迷彩コートを纏う。CSS亜高速粒子刀を腰に差し、ハイベクター二丁を背中にマウントし脇腹のホルスターにエクシウムを入れる。かなり長い白髪がコートで抑えられ戦闘の邪魔にならない様に固定される。


「OK準備出来たわ」


『では、向かいましょうか』


 そう言って外に出ると。玄関先に止めてあったLP2マルチロール自動二輪にまたがり走り出した。




 以前と同じように都市総合病院にきて、ロビーで順番を待つ。ロビーは何時もより人が多く以前の戦闘での治療者が多く退院者や入院者そしてその見舞い客が多いのだろう。

 ノエルは無人受付で受付を済ませて整理券を受け取るとロビーの柱にもたれかかる。人が多く座れる様な場所が無いからだ。何時もと同じようにフェンリルと雑談をするが、今回はナノマシーンについてを話す事になった。


『今回のナノマシーンは前回とは違い汎用型ではありません。回復性能は以前の物と同じですが今回の製品は瞬間的な出力に重きを置いています。瞬間的に爆発的な身体能力を発揮できる製品です』


『それは近接戦闘で刀を扱うから?』


『それが大きいですがTSSR対物ライフルの様な反動が大きい銃をしっかりと瞬間的に反動を軽減させられるなら汎用型より良いと判断しました』


『つまりそれが利点という事ね。それでデメリットは?』


『まず現在使用しているSS2身体強化服ではしっかりとした性能を発揮出来ません。悪く言えば相性が悪いです』


『じゃあ新しいのを買うって事?』


『そうなると思います。それにSS2身体強化服では今のノエルの技量に追いつけないでしょう。そうなってくるとオーダーメイドの強化服や防護服を購入する事になります』


『オーダーメイドね…』


 そこまで話したところでノエルの順番となり以前と同じように集団処置室に向かう。こちらも以前よりも人が多くかなりの人数が居た。それでも空いたベットに横になり、以前と同じように回復薬を飲んだ次の瞬間には点滴の針が刺さっていた。真っ赤な液体がノエルの腕に吸い込まれる。手持無沙汰になったノエルはさっきの話の続きを始めた。ノエルもオーダーメイドの強化服の話はちらちらと聞く。ありとあらゆる事を調べつくしそのデータから生みだされた強化服や防護服は量産品を遥かに上回る性能を発揮する。だがそれ相応に高額な料金を要求されるのだ。


『さっきの話。オーダーメイドの、いくらかかると思う?』


『そうですね…1億は見ておくべきでしょう。勿論性能の向上を求めるならもっと掛かります。場合によってはルクルムでは支払うことが出来ない装備になるかもしれません』


『ルクルムじゃ払えない?』


『私達の通貨ですよ』


『異界の通貨って事!?』


『都市でも高性能な製品にはその異界の通貨での支払いをする事はままあるそうです。勿論ルクルムを異界の通貨であるドルにする事はできます。かなりの税率がかかりますが』


『因みにいくらなの?レート』


『今のレートなら100億ルクルムで1ドルですね』


 それを聞いたノエルは耳を疑った。


『ひゃ…100億?』


『そうです。逆にドルをルクルムにすると1ドル10億です』


『ほぼ税金じゃない…』



 雑談をしているうちにナノマシーン投与と適応が完了したノエルは体を起こして、異変が無いかを軽く確認するとその場で料金を支払った。


『今日はナノマシーン変更も終了しましたし回復薬もまだ余裕があります。明日は異跡に行く予定ですから軽く身体能力の確認だけにしましょう』


『そうしましょうか』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る