第23話:世間知らずの身の程知らず

 ノエルが気絶した少女を揺り起し、それでも目覚めないので一先ずこのまま放置は不味いという事で迷彩コート内に隠したまま乗ってきた車に運ぶことにした。

 車に運び終えたノエルは強化服のエネルギーパックを交換しようとした時だった。


『ノエル伏せて!』


『チッ!』


 強化服としての機能の残ったパンチをすんでの所で回避したノエルはそのままフェンリルの強化服強制操作に抗わない様に少女を足払いする。


「待った、貴女を襲った賊じゃない」


「信じられないですよ!」


「ごもっともね。という事で話の通じそうな人に通信させてもらったわ」


 そう言って一応都市職員であるウメハラに連絡した。

 それで自分の身をある程度の保障とした。

 彼女らが話し始めたのを一先ずおいて置き強化服のエネルギーパックを交換して外に出る。追手が来た時に直ぐに対して直ぐに対応出来る様にする為だ。


『このまま撤退する事を推奨します』


『それはそう思うのだけどね』


 中にいる少女に向かって一応聞いてみる


「ねぇ、敵は残ってると思うから今のうちに移動したいんだけど?」


「うるさいです!電話中は黙ってて下さい」


「…一人で置いて帰るわよ」


「荒野のど真ん中で置いて行かないでよ!」


「護衛対象でも無い相手を無報酬で助けただけで満足して欲しいんだけど?」


 そう言ったノエルはバイクを起動しようとした所で彼女に止められる。


「ま、待って!じゃあ護衛依頼出すから!」


「護衛依頼って…報酬の相場分かってるの?それに受けるとは限らないわよ?」


 そう問い詰めた次の瞬間フェンリルの大声が響き同時に強化服が無理矢理操作され車に体が固定される。次の瞬間強烈な衝撃が車体を襲った。


『何が!?』


『先ほど殺した奴の仲間でしょう。かなりの距離から高威力ミサイルを発射したようですね』


『車は生きてるの!?』


『ギリギリですね。今都市に向けて操縦してます』


「貴女の我儘にこれ以上付き合っていられないわ。達成報酬で敵の強さから私に払う値段を敵の装備とかで判断して決めるっているなら護衛依頼受けるけど?」


「それ以外だったら!?」


「私は勝手に帰るわ。私だけならこのコートの迷彩を使えば一人だけなら帰れるから」


「貴女に人の心は無いの?」


「何言ってるの?これでも直ぐに一人で出ていかないだけまだ譲歩してるわよ?荒野において何が起きるか分からない状態で無償で人助けしろと?冗談じゃないわそんな余裕はないし偽善者は居ないわ」


 TSSR対物ライフルを持って走る車両から身を乗り出す。フェンリルによるサポートで映し出された映像には腕が四本ありミサイルランチャーを4本持った大男が見えた。


『あの一人でこちらに攻撃してきたとは考えずらいですね』


『あれだけなら勝てるかはともかく何とかなるけどもう一人の戦闘能力があの超重装強化服相当が奇襲してくると考えたら無理ね』


 体を戻すと装備の入っているリュックを背負いそこにTSSR対物ライフルをマウントさせると無言でバイクにまたがった。


「じゃあ精々頑張ってね。超重装強化服ミサイルランチャー持ちと最低でもあともう一人が来ると思うけど」


 そう言うと彼女は酷く顔を歪めノエルに泣きついた。

 彼女は正真正銘最近壁内に居た世間知らずの人間だ。彼女は優秀な姉と比較され続けた、そして彼女は自分で生きていくため、トレーラーを購入して自分の力だけで異物買取とシーカー向け装備の販売を始めたのだ。

 だが彼女は壁外の現実を知らなかった、彼女は純粋すぎた。残酷なこの世界で彼女は幸運だった、それなりにシーカー相手に仕事をすることが出来た。そこで彼女は少々調子に乗りすぎた、碌に情報収集もせずに仕事を進めここまで来てしまった。

 だがこの世界は非情だ、むしろノエルは金さえ払えば協力すると言う辺りまだ恩情があった。普通あんな態度をすればその場で撃ち殺されてもおかしくは無い、酷い場合はあの手この手で借金地獄や奴隷となるだろう。この世界においてただ普通に死ねると言うだけで幸せなのだ。全身義体者にされれば更に死ねなくなる。その点ノエルは鬱陶しかったら殺すことはあれどある程度は利己的に動き、無害であるなら少なくとも無視をするだろう。


「助けて…下さい。お願いします…」


 懇願に等しいその願いを聞いたノエルは一先ずバイクに乗るのを止めて少女の方を向いた。


「私は慈善団体じゃないし聖人君主でもないわ。私は貴女をタダで守るほど命の安売りはしてない」


「お金は何とかします!だから助けて!都市に帰れれば1000万は出せます!」


「…敵の戦闘力次第では増額してよね?」


「します!」


 そこまで聞いたノエルはため息をつきながらもバイクを彼女に渡した。


「それの自動運転システムが都市まで最速で向かってくれるわ。さっき貴女と話したウメハラって都市職員を頼りなさい。都市の職員に手を出すほどバカではないと思うから」


「貴女はどうするの!?」


「私は此処で敵の足止めをして、あわよくば撃破を目指す。そのウメハラって職員に話がついたら出来れば援軍を出して貰いなさい。貴女その世間知らずさ的にも壁内の人間って奴でしょう?敵は少なくとも何とかしておく援軍と言うよりは医者をお願い」


「わ、分かったわ」


「貴女を都市に着くことの援護。今回の敵の排除又は時間稼ぎ。基本料金は1000万援軍などは貴女持ち…OK?」


「それで良いわ」


 ノエルはTSSR対物ライフルを改めて装備し。変形した後部ドアの前に立つと、身体能力強化ナノマシーンと強化服による人間によるものとは思えない怪力で蹴破った。

 彼女を送り出す為先ほどの超重装強化服の四つ腕男に銃撃を開始した。体感時間を極限まで圧縮しかなりの反動を片膝を付きナノマシーンによる身体能力向上と強化服による高質化と身体能力上昇で殆ど無反動にした。それでも重装強化服を着込んだ大男ダインの高出力人工斥力場発生装置アーツリパルシブフィールドを貫くことはできなかった。そのことを再認識したノエルは先にミサイルランチャーを狙うことにした。発射寸前のミサイルランチャーを先に狙い人工斥力場発生装置アーツリパルシブフィールドでも防ぎきれないダメージを与える。

 ダメージを与えられたかは実際のところ不明だがこれをチャンスとしてノエルのバイクに乗った少女に合図を出す。


「今よ!」


 返事は無く、行動で示した。少女は飛び出しすぐさまトップスピードで都市に向かって走り出した。


『さて、私もここから生きて帰る為あがくとしましょう』


『私のサポートがあれば勝てます。ノエルが少々命を懸けるだけです』


『出来る限り頑張るわ。大丈夫、手足が吹き飛んだとしても掠り傷よ』

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