第24話:リビングデット

 TSSR対物ライフルの専用弾と徹甲榴弾による銃撃を続けた所で効果が薄い事を察して銃撃を停止し迷彩コートの機能を起動して身を隠す。

 送り出した少女はどうやら無事戦域を脱した用で車載のレーダーからも消えている。

 接近してくる二つの反応を察知したノエルはまだ距離が離れている内に一人でも先に殺すことにした。


『先にミサイル持ちを殺しましょう。さっき装備していたミサイルランチャーは全部破壊できたと思う。あの強力な人工斥力場発生装置アーツリパルシブフィールドも0距離なら多分抜けるんじゃないかしら』


『賛成します。ある程度種の割れている方を倒してしまえば消耗を抑えることも可能かもしれません』



 迷彩コートの性能を信じダインに不意打ちを仕掛ける為接近するノエル。

 接近する事は問題なく出来た。だがダインの装備は既に変更されており巨大な槌を持っていた。どういった装備なのか全く分からなかった。それでも此処で何もしないわけにはいかず、ダインの後ろに回ったノエルは極力ゆっくり悟られないようにTSSR対物ライフルの銃口を突きつけた。

 ノエルがTSSR対物ライフルをほぼゼロ距離で発射する寸前になった時だ。ダインは急に身をひるがえそうとし、それに気づいたノエルはすぐさまTSSR対物ライフルを連射する体感時間を圧縮し普通の人間なら致命傷と言える攻撃を与え頭部を破壊したはずだった。だが今回は頭部の半分を吹き飛ばしても動き続け、なおかつこちらをしっかりと視認した。


『こいつ!?全身義体者!?』


『上手いですね。全損しないよう極限までダメージコントールをしたとは。ノエル!防いで!』


 フェンリルのその声と強調表示された場所には今まさにノエルに向かって進む巨大な鉄槌が見えた。ノエルは咄嗟に持っていたTSSR対物ライフルを盾代わりにして防ごうとした。フェンリルによる最適化され強化服の高質化も合わさった防御は間一髪間に合った。

 だがTSSR対物ライフルは粉々に砕け散り、防御に使った腕ごと体がくの字に折れ曲がる。バキッゴキッと言う音と共に鉄槌が爆発しさらなる追撃をノエルに見舞った。50m程吹き飛んだノエルは瓦礫の山に衝突し停止した。戦闘直前に飲んでいた回復薬と体内の身体能力強化ナノマシーンが全力で身体の再構築を行う。

 ダインの持つ鉄槌は炸薬が搭載されており衝撃を受けることによって更に破壊力を増す鉄槌だ。近接戦闘としては大型の部類ではあり、そう珍しい部類ではなくポピュラーな武装だ。



『ノエル!?起きてノエル!?』


 強化服がフェンリルによって操作され回復薬が砕かれ全身にまかれる。ノエルの体はミンチも同然の状態にまでいたり。仮面も破損している。顔の一部は爆風をもろに受け頬の大部分に重度の火傷を負い、TSSR対物ライフルの破片や仮面のかけた部分が突き刺さり痛々しい姿となっていた。

 その肉体が病院に行った帰りに一箱200万と少々高額な高性能品の回復薬が半身ミンチなった肉体を修復していく。

 数秒後目を覚ましたノエルは口から大量の血を吐きながら起き上がった。


『体中が超痛いんだけど』


『喜んで下さい。それが分かるってことは生きています』


『体の右側が上手く動かない…どうなってるの?』


『ミンチに大火傷です』


『死んでないならかすり傷…』


 そう言ったノエルは未だ碌に回復していない体を無理矢理強化服を操作する事で立たせる。

 ガラクタと化したTSSR対物ライフルを投げ捨てかなりのカスタマイズを施したタボールを取り出す。今まさに迫っている頭が半壊した義体者を見据え例え先程の一撃をもう一度喰らうとしてもそれでも接近する。ノエルの装備では人工斥力場発生装置アーツリパルシブフィールドを貫通しえる装備は無い。エクシウムであったとしても人工斥力場発生装置アーツリパルシブフィールドは防ぎきるだろう。


 人工斥力場発生装置アーツリパルシブフィールドは一定条件を満たせばありとあらゆるものから使用者を守る事が可能だ。例えば対人工斥力場発生装置アンチアーツリパルシブフィールド弾と呼ばれる都市による制限下の銃弾を使用するか。高い戦闘能力とシーカーランクを持つシーカー等が持つ実体剣や粒子剣であればその斥力場を突破しえるだろう。だがノエルが実践したように超近接射撃による攻撃かエネルギーパックを枯渇させる以外は対抗手段が無い。


 視界が半分潰れてはいるものの視界が360度あってもおかしくはない。ノエルも仮面の視覚範囲を直接自分の目を介さず視覚情報として処理している。そこでノエルはスモークグレネードを取り出し口でピンを引き抜くと今まさに私に迫るダインに投げた。そして直ぐにジャミンググレネードのピンを抜いてそのスモークグレネードが起こしたスモークの中に投げ込んだ。

 ノエルは事前にその成分表を確認しているため影響は最低限で済む。その自分だけが見える状態の中ファンリルのアシストによって拡張表示された。


 ダインに対戦車ライフル相当の威力を発揮する強装弾を片手で発射し開いてる手でベクターを取りこちらでも強装弾を掃射する。一点集中したその弾丸達は最初こそ人工斥力場発生装置アーツリパルシブフィールドの発生する斥力場に弾き返されていたが、やがて押し切り残っていた頭部をハチの巣にすることに成功した。視界を失ったと思われた瞬間義体に接近しベクターを投げエクシウムによって一刀両断する。

 そこで安心せず、更に死んだかどうかの確認のため銃撃を与えようとタボールで数発撃ち込もうとした時だった。


 視界の端で何かがきらめきフェンリルが強化服を無理矢理動かしすんでの所で回避する。


『新手!?』


『そうやら殺す気満々のようですね。ノエル回復薬を二錠取り出して一錠は飲み込まないで口で含んでもう一方は先に飲んでください』


『了解』


 飛びのき言われた通り回復薬を口に含む。ミント味が気休め程度に気分を紛らわせながらも口の中は血の味しかせず本当に気休めにしかならなかった。

 現れた最後の相手は素人目で見ても分かる程度には体の間接各所が機械的であり恐らく全身義体だと判断できた。女性的体格をしていることから恐らく女性だろう。だが頭部はどうやら人のままの生身の様だった。

 背負っていたリュックを回復薬を数個取って近くに放り投げる。


「ねぇ、一応聞くのだけれど…見逃すから何処へなり消えてくれない?お互い無駄に血を流す必要は無いと思うのだけど」


 ノエルがそう聞く。一応本当にそう思っているものの、本当の回復薬の回復を待っている状態だ。出来れば戦闘するにしても出来る限り回復はしておきたいと思い、一応聞いてみたのだった。意外にも彼女ジンは一先ず刀を鞘に収め返答を始めた。


「それは嫌よ、そこに転がってる間抜けを含めて一応仲間なのよ。過去にこだわらないタイプだけどね?それに、貴女とっても強いんだもの。最初は不意打ちにうまくいった雑魚が調子に乗ったと思っていたのに。私は義体者になってから落ちぶれたとは言ってもある程度は技量は判断できるのよ?それでも貴女はちょーっと差がありすぎるわ」


「残念ながら私は貴女が思うほど強くないわ。何時もギリギリ勝ってるだけだもの」


「どうせこのままじゃあ逃げきれないわ。だったら貴女くらい殺しておきたいのよ、死なばもろともって言うでしょ?」


 そう言って彼女は刀に手をかけ腰を落とした。


『ノエル警戒して』


『分かっているわ』


 ノエルは転がっていたベクターを器用に蹴り上げキャッチするとベクターとタボールを一緒に構える。そのまま先制射撃を発射した。

 その銃弾を最低限の動きで回避したジンは刀を抜き放ちその粒子は高速でノエルに迫った。ノエルは身をひねり回避を試みるもあまりにも高速で接近した粒子の斬撃を回避しきれなかった。その影響でタボールごと右腕を斬り飛ばされることとなった。


 痛みに顔を歪ませながら口に含んでいた回復薬を飲み込み多少痛みを消す。ベクターで攻撃を続けるもジンは軒並み外れた運動性能を発揮し銃撃を回避する。


『ベクターでは駄目ですね』


『それはつまり私には無理と言われて言われてるも同義なのだけど?』


『正直先ほどの義体者よりも強敵です』


『…勝てない?』


『いえ、勝てます。ただかなりの無茶をしますが覚悟はよろしいですか?』


『何でもやってやるわ』



 ノエルは弾切れ寸前のベクターをジンに向かって投げ捨てるとエクシウムを取り出す。既にブレードモードのエクシウムを強化服と身体能力強化ナノマシーンの身体能力で振り下ろす。それを粒子刀が受け止めた。相殺することが出来たが剣の技量で圧倒的上位者であるジンには勝てない。それを分かっているフェンリルは絡め手で勝つことにした。体感時間圧縮を未だかつてここまで多用したことのないノエルには強烈な頭痛に襲われ始めている。限界はほど近い。

 刀を振るい合いそれでも届かない。だがノエルはこの死闘の中で近接戦闘能力が向上していく。体を斬りつけられる回数は減りつつあるがそれでも回復薬の有効時間が迫り身体能力強化のナノマシーンにも限りがある。


『次で勝負を決めましょう。覚悟はいいですか?』


『いいわ、やって』


 ノエルは迫りくる刀を体感時間圧縮の圧縮度を更に高め回避しきる。そこでコートの迷彩効果が起動し姿がジンの眼からかき消える。そこで体を翻し全力の一刀をノエルが振るう、それでもジンはそれに対応した。

 一部のものが勘と呼ばれるものを信じる傾向がある。だがそれはバカにできない物で確実に生死にかかわる判断を勘で行いそれで生き残っている者が少なくないという事だ。ジンは勘が義体者になってから鈍り落ちぶれたが完全になくなったわけではないのだ。時に直感に従い命を救われることが多い者にとっては重要なファクターだ。

 最後の最後の土壇場でジンはその感覚を信用し見事にノエルの居場所を見切った。そして彼女は自身が放てる最速の一刀を抜き放った。見事ノエルの体をとらえたジンだがノエルはその一刀のラインを完全に理解した上で斬られることを選んだ。よってジンの体をほんの一瞬先に急角度の逆袈裟斬りで斬ることが出来た。ノエルは体を左脇腹から斜めに切り落とされたがノエルはジンの義体をほぼ真っ二つにすることに成功した。頭部まで切られたジンはノエルの体を切断すると同時に機能・生命活動を停止した。



 ノエルは既に勘という物によって今日死にかけることになったのだ。それをフェンリルも理解した上でこの選択肢しか残っていなかった。先にあの大型義体者に一撃入れても行動できたことをヒントに身体能力強化ナノマシーンによる回復効果で延命を選択した。

 息もまともに出来ない中冷えてゆく体を体感する。強化服がフェンリルによって操作され回復薬を切り口に撒かれる。流れ出る血液がとまり少しの間死ぬまでの間の時間が延びる。ありったけの回復薬をフェンリルがノエルに飲み込ませようとするもノエルは意識を喪失し使用できなかった。使用者の意識消失に伴い強化服の状態も停止状態になりフェンリルにも操作が不可能となった。


『貴女はよく頑張りましたよ、ノエル』


 フェンリルは情報端末を操作し出来る限りの手を付くし、眠りについた主人と同じように自身も待機状態に移行した。

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