第22話:自分から進んで問題にかかわっていく者
一台の荒野仕様の車が慎重に荒野を走る。
都市では人気の高い車種という物がある、現在ノエルが運転している車種もその一台だ。販売名称はドレットライトと言い最前線で使用されている大型多目的装甲車両のドレットノートのダウングレード品。装甲や
車両に元々装着されていた高機能情報収集をフェンリルが利用し周辺のモンスターの様子を監視する。元々ノエルが持つ情報収集機器はそこまで性能の良い物ではない、フェンリルによる性能の底上げするリソースをノエルの情報収集機器に割くよりも車の情報収集機器に割り振った。
「やたら静かね」
『嵐の前の静けさと言いますよ』
「勘弁して欲しいわ」
車両の運転をしつつ情報収集機器を自分でも確認するノエルは、そのモンスターの少なさに素直に喜べなかった。
『先日依頼の来たモンスターの不審な活性化のせいでしょうか。やけに少なすぎます、ここまでの道のりで影も形も無いのはおかしいです』
「前回の報酬も殆ど装備に消えたから次の報酬で性能の良い情報収集機器を買いたいわね」
『そうして頂けると私の索敵能力をいかんなく発揮できますね。ノエルは幾つもの特化型情報収集機器を持つタイプではないので汎用型の情報収集機器をお勧めします。大型の機器を持ち歩いて一人で戦闘もこなすわけでは無いですよね?』
「そうね、後は私には火力がないかな。弾薬を大量にばら撒いて倒す戦闘しかしてないでしょ?TSSR対物ライフルは確かに高威力で私と言えばこの武器って言えるけど取り回しが悪いし」
『そこまで行くと爆発物か粒子剣を買う人が多いようです』
「爆発物って榴弾砲とかミサイル?」
『そうですね、まさにそんな感じです。ですが今は仕事に集中しましょう。駐屯地が見えてきましたよ』
フェンリルが指さす先には配達目標地点の駐屯地があった。
重装備の巡回隊員に多くの対空・対地兵装を備えた駐屯地を視認し、一先ず安心する。
そのまま通用口の隊員に声を掛け要件を伝えると直ぐに入出許可が出た。
規模はそれなりに大きく中継地点らしい。中の様子を見ると都市職員以外にも熟練なシーカーと思われる者達を多く見かけた。他にも一部民間のトレーラーも見かけシーカー向けの装備を販売しており異物の買取も行っているようだった。
『シーカーオフィス以外でも異物買取ってしているのね』
『でもノエルはそう言った伝手を今は持っていませんし、それ程高い買取額を出せそうな異物も持ってません。それに異物収集の腕もそう高くないのでは?』
『分かってるわよ…』
『今後の為にもそう言った伝手を持っておくのは良いと思いますよ?シーカーランクに興味がないノエルはその分お金でしょう?シーカーランク上昇がない分高額買取してくれると思いますよ』
『やっぱりと言うかそう言った感じなのね』
荷卸し作業も終了し受領のサインも貰いそれをウメハラにメッセージで送る。一応依頼期間は都市に帰還して完了の報告するまでとなっているが中間報告として報告した。
『思ったより…拍子抜けでしたね?』
『いいじゃない。私の運もまだ残ってたかしら?』
そんな話をしながらも車を運転して都市に帰る為出す。
丁度中間地点に入った時、爆発音がノエルの耳に入る。
すぐさま車を止めて爆発があった方へTSSR対物ライフルのスコープを向ける。フェンリルによる視覚補正によって映し出された映像には黒煙の中に一人の少女が見えた。
ノエルとそう変わらない年齢に見えるその少女は死んではいないも様に見える物の気を失っているようだった。
『どうしますか?』
「どうする…ねぇ」
恐らく野党に狙われた哀れな少女だろうと思って眺めていると大型の機関銃を持った男が現れた。如何やら彼女を誘拐する予定らしい。
「こっち気づかれて無いわよね?」
『恐らく』
「このコートの性能テストにはいいか」
そう言ってノエルは車をおり迷彩機能を起動した。
ノエルの迷彩コートは旧世界の異物でかなりの高性能な製品だ。殆どの情報収集機器をスルー出来るだけの性能を持つ、その能力を遺憾なく発揮し出来る限り最速でその少女の付近まで近寄った。
◆◇◆
CVE汎用機関銃を持つこの男はゆっくりと慎重にその少女に近づく。このオーラルと言う男は仲間からの誘いに乗り此処に来ている。
リーダーであるダインからのこんな信憑性の薄い作戦には普段なら参加しなかった。だが最近は仕事が上手くいかず酒と女に逃げてうだつの上がらない生活を送っていた。碌に強化服などの整備もせずにうまくいけば一発逆転の大博打に参加する事になった。
『おい、ホントにこの女攫うだけで良いんだよな?』
『そうだよ。ていうか早くしろよ気絶から起きるだろ!』
『早くしてくれない?私今回の仕事終わったら再生治療で腕治すんだから』
『うるせーよジン!3人とも同じような理由だろうが!』
ため息をつきながら目の前の金髪の少女に触れようとした時だ。強烈な弾丸が着弾し
だがその弾丸の貫通力が高すぎたのか整備不良で出力不足だったのか。その大口径のライフル弾は
『おい!オーラル!どうした、返事をしろ!』
『チッ!強力な護衛が居たの!?』
その重装強化服は機能を停止し中の生ゴミと一緒に倒れた。
もし彼がしっかりと整備を行っていれば。もし発射された弾丸がTSSR対物ライフル専用弾ではなかったら。彼は生きていただろう。
◆◇◆
その弾丸の射手であるノエルは一応そのまま警戒を続けていた。敵の加勢などが一先ずない事に安心して銃を下した。
『着弾の瞬間何かに阻まれたみたいだった』
『あれが恐らく
『何でもいいわ。敵が来ないうちに眠り姫を起こしましょう』
周りの警戒をフェンリルに任せて、巨大な生ごみの入った重装強化服の横にいる気絶した少女に近づいた。
彼女もかなり性能の良い強化服を着ていたようだがどうやら先ほどの爆発で制御基板にダメージを負ったようだった。
『一先ず揺り起こそうか』
『ノエルが犯人に思われると思いますので注意してくださいよ?』
『まぁ、都市の職員に話は通せるからそっちで何とかしてもらうわ』
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