第21話:ウメハラからのやたら簡単そうな報酬が前払いで相場よりやたら高い依頼

 第三都市にある都市総合病院の二階の西側一部には大きい食堂がある。

 相当数の人間からサイボーグを治療する病院では価格帯も含め様々なバリエーションの食事を提供する。

 病院ではあるもの食堂は味の濃い物も少なくない。だが、今の時代病気は医療用ナノマシーンや金さえあれば体の入れ替えに義体化と言った健康に対する考え方が薄い。むしろシーカーは戦闘で有利になったりするものの方が売れ行きが良い。

 ノエルは当初こそ気にしなかったがそこそこ場数をこなすようになり、多少余裕が出てきた最近はそう言った事を気にし始めている。


『広いわね。それでも結構混んでるけど』


『開いてる席をマークしますからそこに座ってください。その前に料理を注文しましょう』


『はいはい』


 適当に定食を注文してから数分待ち、出て来た食事を開いてる席で食べ始める。

 特段変わったところの無い料理で、むしろ価格帯からすれば量が多く味も値段相応の物だ。

 だがノエルは満足出来なかった、つい昨日身の程に合わない高級料理を食べた翌日だったのだ。分かってはいても物足りなさは否めなかった。


『そんなに気になるなら自費で行けばいいのでは?』


『少なくとも今の稼ぎでは無理よ』


『いつかは行けますよ』


『贅沢を覚えるとダメね。こんなに食事が物足りなくなるなんて』




 食事を進めるノエルだったが如何やらかなり混み始めたようで空席がなくなってきたのを感じた。

 直ぐに誰も座っていないテーブルは無くなり相席する者が出始めた。

 ノエルは少々食事量が多い、その分燃費が良いが食べれるなら結構食べるタイプだ。だが食事速度はそう早くない、遅くも無いが量は多いので結局は食事時間が遅くなる。

 そしてノエルの座る二人掛けのテーブルにも相席するものが現れた。其処には元々フェンリルが居たが他の者からフェンリルは見えない、このままでは被ってしまうのでフェンリルは立ってそのまま空中に漂い始めた。相席しようとしているその男は一応一言断りを入れてノエルの了承を得て座った。


「すまないねー!」


「別に気にしないわ」


 敬語も無しの愛想の欠片も無い返答をし、ノエルは少々箸を早め始めた。

 相席してきた男は食事しながらも時々ノエルに話を振ってくる。それをノエルはかなり鬱陶しいと思いながら一言二言の返答で返していた。


「君も何か戦闘の傷で来たの?」


「違うわ」


「ほー。じゃあナノマシーン投与か何か?」


「そう」


 都市の職員の制服を来ている彼の事をフェンリルに調べてもらうことにしたノエルは念話で聞く。


『この男都市の職員よね?』


『そうですね、名前はウメハラ所属は長期戦略部の主任ですね』


『あっそう』


『普通のシーカーなら喉から手が出る程ほしい伝手だと思いますよ?』


『本業が名が売れてないだけでシーカーではあるけど。その点でもフォルテノさんとの伝手があるからそっちと好意にしたい』


『確かにそちらの伝手の方が強力ですね』


『険悪にならない程度に当たり障りない話をするわ』


 その言葉の通りウメハラからのほぼ一方的な会話に適当に返答をしながら食事を進める。

 周りが席を立ち始め空席が出来始めた所でノエルも食事を食べ終える。ウメハラは食事を終えてもノエルに話を振り続けた、ノエルは食事で口元の表情を隠しながらもその話に変わらず適当な返答を続けた。最後の一口をお茶で流し込み、残ったお茶を飲み切ったノエルは口元を拭うと仮面を付け直し直ぐに席を立ち逃げるように離れようとした。だがそれを止める声があった。


「あー君君!待った待った」


 呼び止められた気がしたがそれを人違いと判断してそのまま離れる


「さっきまで僕と話していて仮面を付けた君だ!」


 そこまで言われ、仕方ないと振り返った。ノエルは仮面で隠れてこそいるが鬱陶しそうな顔で先程まで自分が居た席の方を振り向くと手招きするウメハラが居た。

 通りがかった無人配膳回収ドローンに食べ終わったトレーを返却し先程まで居た席に座り直す。


「なんです?」


「いやぁ、君に仕事を依頼したいんだよね」


「会って一時間も経過していない殆ど碌に話してない相手に依頼?」


「君の事を調べるなんて会話と食事をしながらでも片手間で出来るさ」


「それはどうもウメハラさん?」


「いいねいいね。君のシーカーランクは詐欺と言えるんじゃないかい?優秀だ」


「それはありがとう。自分では欠片も優秀だと思ってないけれど。受けるかは依頼内容を聞いてからね」


「まぁ簡単に説明すると荷物運んで受領書貰って帰って来てって話。詳細はシーカーコードのメッセージに依頼文送るから」


『受けますか?』


『内容次第、後フェンリルの索敵能力』


「因みに受けるかだけは早いうちに頼むよ?」


 送られて来た依頼内容は都市から少々離れた駐屯地に物資を送る事と、その駐屯地の位置データに運ぶ荷物のリスト。そして驚くべきことが一つある報酬の欄である。

 護衛役に戦闘能力を買われたシーカーが抜擢されることは珍しくない。だが余程危険なルートや希少な商品でもない限りは報酬は高い訳ではないというのが普通だ。だが今回の依頼はやたら高額だった、具体的には


『基本報酬200万!?』


『やたら高額ですね。別に依頼された搬送物がレアではないですしルートも多少南側とはいえ比較的安全です。精々高くても100万ルクルム程度と思われる依頼相場にその倍ですか』


「驚いたかね?基本料金は前金だぞ?」


 しかもこの依頼イレギュラー発生時は追加報酬が支払われることになっていた。ここから想定されることは簡単だこの荷物が狙われること前提で行動しろと。


『う、受けたくない…絶対裏があるでしょ』


『ただ都市からの依頼も同義の依頼ですからね。都市に住まう以上極力受けるべきかと』


『弾薬費無料で死ぬ気で戦闘したとして対処可能なイレギュラーならまだ良いけど』


 悩みに悩んだノエルは自分の戦闘能力の不足を理由に辞退したいというのを伝えることにした。


「私には実力不足です、私は装備も実力もお粗末だと自覚していますので是非とも他の実力の釣り合うシーカーの方をお勧めします」


「ちょっと車で荷物を運んで受領書貰ってくるだけさ!簡単だろう?」


 ニコニコ笑顔のウメハラを内心殴り飛ばしたい衝動に駆られ表情にだすも仮面で彼には見えない。それでも言いたいことは伝わっているようではある。


「分かりましたよ。やればいいんでしょう!?やれば!その代わり弾薬何かは遠慮しませんから!」


「構わないよー!」




 ノエルは翌日フラッグシップにやって来た弾薬の補給をする為だ。

 今回の依頼は弾薬が無料である為大量に買い込んで不測の事態に大量の弾薬による火力で余裕を持って対処するためだ。

 それなりの纏まった金額もある為ベクターを始めとした銃を強化することもできる。改造パーツを買って組み込めば新しく銃を買うよりも安く高威力で高性能な高価格帯の装備に近くできる。勿論性能限界の都合上新しく買う方がいい場合も多いかもしれないが。無駄に大量の銃を持ち運ぶのはノエルの望むところではなかった


「グリスさんTSSR対物ライフル専用弾と徹甲榴弾今出せる分全部って言ったらどれくらいになる?お金は無視しても大丈夫だから」


 店に入って開口一番そう言ったノエルに何かあったと察したグリスは何があったか聞いた。


「また大口の仕事でも入ったの?無茶して稼ぐような事はお勧めしたくないんだけど?」


「今回は都市機構維持機関のウメハラって人からの依頼よ」


 そう言った瞬間グリスは眉間にしわを寄せた。それなりに長い仲であるノエルは何かあると察して何かあるのかを聞いた。


「どうしたの?」


「その人新人殺しだよ。うちの常連もその人が出した依頼に殺されてる」


「依頼に?」


「そう、その人自体は別に普通に気さくな人。でも彼が出す依頼はイレギュラーな自体が起きやすいんだ、ただの警護依頼や巡回依頼が大量の強力なモンスターの乱入で地獄絵図になったりするらしい。

 うちに来ていた客の中にも知らずに受けて都市からの依頼だーって依頼に向かってから死んだ話を聞くけどその人の名前をよく聞く」


「それ、よくクビになってませんね?」


「それがね…ただそのウメハラって人の依頼をこなして生き残ったシーカーは大成するらしいくてね。多少は新人を潰すのを黙認されてるらしい。そもそも荒野や異跡では何が起きてもおかしくないからね」


 ノエルはその話を聞いて二度と彼からの依頼は受けないと決め弾薬やグレネードを補給した。

 他にもベクターを始めとした銃の改造パーツを幾つか購入してTSSR対物ライフルの専用弾とまでは行かなくとも同価格帯の銃と同程度の威力を発揮する改造を施し明日に備えた。

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