第17話:旧世界の管理人格

 軍服の少女が目の前に現れた事に直ぐに反応したノエルは直ぐに動こうしたが動けなかった。強化服がまるで動かないのだ。


『抵抗は無駄です、貴方の身体強化はこちらで押えました。基地内に入った時点で私の管轄です。あぁ喋らないようにお願いしますね?私も別に貴方を問答無用で殺す気は無いので』


 ノエルが訝しみながら少女の話を聞き始める。脳内に直接語り掛けてくるこの何とも言えない感覚が続く。


『貴方は見たところシーカー?で良い才能をお持ちのようです。そこで一つ依頼をしたいのですよ。あぁ念話の仕方が分かりませんか?私に向かって言語を伝えようとしてください。貴方の仮面は優秀ですからそれくらいは可能です』


 ノエルは言われた通りに半信半疑ながらもやり始めた。この仮面にそんな機能があったことも驚きだが異界の異物は趙化学だったりは当たり前だ、一先ずそれは置いておいて念話をしようとする。初めは上手くいかなかったが段々と出来るようになっていった。


『…テストテスト』


『えぇ、聞こえます。それで先程の話の続きです。貴方に拒否権はありません、私の権限を無視してでも貴方を殺すことぐらいは分けないのですよ。勿論報酬はお渡ししますし貴方を依頼達成できるようにサポートもします』


『因みに断ったら?』


『貴方の強化服をぞうきんを絞るようにねじってミンチにします』


 一切変化しない表情で淡々とその言葉を言う少女の表情は笑顔だがまるで大蛇に睨まれた様な感覚に陥った。ノエルは渋々ながらも了承し頷いた。


『わかった…受けるわ。せめて依頼内容や報酬を教えてほしいんだけど?』


『まず、絶賛運ばれている私のメインデータが入っているサーバー機器から貴方の仮面へデータを移動させます。そしてとある異跡に私を連れていって下さい。報酬は先ず私のサポートと最新迷彩コートと新型ASのデータになります、全て前払いで構いませんよ』


 ノエルはその話を聞いて運ばれているサーバーらしきものに目を向ける。確かにこのままでは解体やデータ解析されることだろう。そんな事を思っていると仮面が表示している映像に変化があった。どうやら少女のデータダウンロードが終わったらしい。


『改めて自己紹介をさせていただきましょう。私はテンリ陸軍基地領域汎用及び戦闘補助型管理人格のフェンリルと申します。永久の間どうぞよろしくお願いいたします』


『私はノエル。自称だけど便利屋。よろしくね』


 ノエルは強化服の硬直が解かれたのを確認すると立ち上がり少しため息をつきフェンリルと名乗った少女型管理人格に念話で声をかけた。


『取り敢えず前払い分の報酬を頂くわ』


 それを聞いたフェンリルはテーブルからおりて微笑むと案内を開始した


『こっちです、迷彩コートは少々遠い装備保管区画ですので』


 ノエルは依然として自分の五感を総動員しての警戒を始めた。このフェンリルと言う少女は言った「基地内に入った時点で私の管轄です」と、現状何時裏切られてもおかしくない状況でいきなり信用は出来なかった。


 そのことを察したフェンリルはノエルの評価を上げた、初対面のしかも未知の存在に対しての対応としては十分な警戒だったからだ。

 フェンリルの構成理念は元々は忠義だった、それは今も変わらず自分の主にふさわしいかもしれない人間を見つ自分で育てる事も楽しそうだと思ったフェンリルは大きく顔を歪ませる笑顔にした。

 フェンリルはそもそも想像されてから主が居なかった。構造理念は個人に対して決して裏切らないことを目指して設定されたのに基地にて領域の管理を任されていたのだ。そしてその長い間フェンリルは虚無感を抱きながら職務をこなした、そして久しぶりの侵入者と思えば消失の危機ともなれば手段は選べなかった。



ノエルはフェンリルの案内の元目的の区画までたどり着いた。既に踏破された区画だったのもあり、十分安全だったと言える道中だった。フェンリルが指示した場所のに向かうと武装格納容器と思われる物があった。フェンリルが指を鳴らすとロックが解除され中からコートと思われる物が現れた。


『いかがでしょう?』


 ノエルは手に取って眺めると仮面との同期が自動で行われた。早速袖を通したノエルは迷彩効果を起動する等のテストを軽く済ませると再度武装をしっかり整えた。


「100信用したわけじゃない。だけど、ひとまずは」


『それは良かった』


 

 依頼内容を完遂し事実上の報酬も確保したところでノエルは撤退する事とした。基地に帰還し依頼達成報告を澄ませると直ぐに都市に戻る事にした。都市まで送ってくれる配送トラックもあったがバイクの輸送に金がかかるという事でやめておいた。

帰宅するためバイクにまたがったところでフォルテノから声をかけられた。


「お疲れ様でした、報告よりも優秀なようで安心しました」


「それはどうも」


「報酬の件で今度お話したいのですがよろしいですか?」


 以前グリスとの会談と似たような物かと判断したノエルは了承する


「わかったわ、今日はこれでも疲れてるから後で詳細を送って貰える?」


「ではそのように」



 あれた荒野を迷彩機能を使用しステルス状態でノエルがバイクを走らせる。

 とはいえノエルは操作をしておらず内蔵されている制御システムをフェンリルが掌握し改良した上で操縦しているのだ。ノエルも最初は自分で操縦していたがフェンリルが操縦を変われるという事で疲れていたノエルは試しに任せることにしたのだ。


『案外素直に任せましたね』


『下手じゃないとは思ってたし、殺そうと思えば基地に居た時にいくらでも殺せたから。それにもう都市に近いからモンスターもほぼいない。居たとしても都市の防衛隊が動くだろうし』


『それはよかった、私の最優先目的は貴方と私の生存。次に貴方の強化ですから、死なれては困ります。』


 フェンリルが尻尾を振りながら笑顔でそう言う。フェンリルはノエルの隣で宙に浮いている、フェンリルを見える者が居れば目を疑うような光景だがノエルは「まぁ、普通だな」と流した。

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