第10話:予定調和

 荒野は警戒せず過ごせば数分後には骨すら残さず消え去る場所だ。生息するモンスターはそこら辺にある車、戦車、建造物、兵器文字通り何でも喰らって糧にする。それでも高性能なレーダーで探査し服数名のシーカーが護衛につけば比較的安全な時間を作れるだろう。


「資材はこれで以上です」


「こちらもこれで以上だ。そちらはどうだい?何か起きたりしているか?」


 グリスとフラッグシップの職員が軽い世間話をしながら情報交換をしている。都市での出来事なんかは武器を売るものとしても知っておきたいのだ。


 ノエルの仮面を始めとして情報表情デバイスには乗ってきたトラックや他のシーカーの情報収集機器の情報も共有され表示されている。勿論モンスターの接近にいち早く気付く為だ。その中でもトラックに搭載されているものは一番性能がいいのだが、その情報収集機器に反応があった。その反応が少なくそれほど強力な物でもなければ直ぐに護衛のシーカーが独断で迎撃を始めていただろう。だが今回はそう簡単には行きそうになかった、数が多く無視出来なかったのだ。


「あんたら商談は終わったんだろ!?撤退だ、あの数はちとまずい」


 直ぐにノエルを始めシーカーが出来理限りの迎撃を始めている様子とレーダーの反応の多さから不味いと察したグリス達は直ぐに撤退の準備を開始し始めた。


「分かった。直ぐに撤退しよう、直ぐにトラックに乗ってくれ」


 まだ多少距離はあるが猶予はそうあるわけではない。ノエルたちは直ぐにトラックに飛び乗り銃撃を再開する。


「このまま逃げ切れるか?」


 レンヤが大声でグリスにこのまま都市まで逃げ切れるかと聞く


「無理。このままだと都市にたどり着くまでに追いつかれる。もしたどり着いても都市にモンスターを誘い入れた襲撃者として都市防衛砲で消される」


 都市には防衛砲が存在する滅多に使用されることは無くそれでもその威力は都市に住む者は良く知っている。


(そんなに強力な防衛砲なのか。都市を壊滅させる脅威に対処するためならそんなものか?)


 そんなことをノエルは考えながらも銃撃しているが距離によって当たっていても効果的なダメージにはなっていないと感じた。ノエルが使っているのはTTA突撃銃だ。連射性を重視したこの銃は中近距離向けの銃なのだ。


「グリスさん?これより威力と射程のある銃が欲しい。報酬から差し引いて購入することに出来ない?」


 それを聞いたグリスは少し考えたのち積み荷の中から一丁の大型銃をノエルに渡した。


「TSSR対物ライフル。ここから逃げきったら割り引いて上げるけど大丈夫?反動がかなり大きい銃だけど」


「何とかする」


 受け取ったノエルはしゃがみ込みしっかりと構えた。ノエルの仮面にはある程度の弾道予測機能が搭載してあるが、トラックでしかも急いでいるのもあってかなり荒れた運転で揺れて当てるのは至難の業だ。それでもノエルはこのまま役立たずで居るよりもある程度敵が密集している今のうちにこの銃に慣れることを優先した。

 始めの数発こそ碌な命中率ではなかったがだんだんと命中精度は上がっている、それでも敵の数はまだまだ残っている。


 都市の近くまで来てはいるがこのまま近づけば防衛砲とは言わずとも都市防衛隊が来かねない。ノエル達の奮闘の甲斐もあってモンスターの群れの大半は荒野に良く転がる残骸の一つとなっている、それでもそれなりの数はいる上にかなり飛ばした運転とモンスターからの攻撃を弾くためのバリアのような物で残存エネルギーは底を尽きそうだった。


「このままだと不味いのでは?」


 ノエルにそう言われたグリスだが大丈夫だとノエルを諭した。


「大丈夫だよ。ほらウルフフラッグの他のシーカーが来た」


 そう言ってノエルの指さす先には数台の車両がこちらに向かってきていた。


「あぁ。そう言えば言ってなかったね。ウルフフラッグっていうのはうちのフラッグシップと同じ三大企業傘下の組織なんだ。だからこの依頼も経費で落とせる」


 未だ迎撃に全力を注ぐノエルにそう言いながらグリス本人は端末を操作し始めた。


 数秒後トラックを追っていたモンスターに大量の榴弾が襲い掛かった。ノエルは危険は一先ず無くなったと判断し残敵掃討に移った、この銃にはだいぶ慣れてきていたが実戦で撃てるなら撃っておきたかったからだ。ノエルは流石に可能性は低いと思われるが報酬から天引きされたときに逆に支払う事を恐れたのだ。


 最後のモンスターが討伐され戦闘が完全に終了した。グリスを始めウルフフラッグの三人は応援に来たウルフフラッグのメンバーに会いに行った。ノエルは少し反動で受けた痛みを消すため旧世界の回復薬を一錠取り出し飲み込んだ、この回復薬も残りは少なくなってきておりこれと同等の回復薬ともなればどれ程の値段になるかは分からない、今後は節約するほかないだろう。

 ノエルが回復薬を飲んだり強化服のエネルギーパックの確認等をしている間グリス達は応援に来たチームの代表の男、エクターと話していた。


「エクターさん助かりました」


「構わねぇよ、同じ所属のメンバーを助けることは推奨されているからな」


 エクターはグリスとの軽い状況説明を終えるとサトナガと話し始めた。


「よう。結構な数って聞いて来たがそんなに多くねぇじゃねーか。鈍ったか?」


「ちげぇよ、あのグリスの連れてきた小娘が積み荷のTSSR対物ライフル買ってバカスカ撃ったからだ。お前らが来た頃にはだいぶ減ってたんだよ、それでも結構トラックのエネルギー使ってたし撒けそうになかったからな」


「なるほどな。だがそう簡単にあの反動のデカい銃使いこなせるもんなのかねぇ?」


「そう言われたらそうだが、あの小娘だって最初は見当違いなところに撃ってたさ。それでもある程度したら命中するようになってたぞ?とは言っても常に見てたわけじゃないからな?ほら、今リーナと話してる奴だよ」


 サトナガの指さした先にはノエルとリーナがシーカーの常識などを話していた。ノエルはシーカーとして活動していた知識が少ない為興味深々に聞いていた。


「…俺には碌に戦えなさそうに見えるな」


「まぁ、そこは同感だ。結局素顔も見せなかったよあいつ。だが銃撃の腕はなかなかの物だった、あの外套だったしな声を聴くまで女とも思えなかったし今も思ってない。本当に女かどうか聞きたかったらリーナかグリスに聞いてくれ」


「そこまでの興味はねーな」


 サトナガとエクターはそんな雑談をしていたが流石に都市の近くとは言え荒野に何時までもいる訳にはいかない、近くにモンスターの死体もあるので直ぐに離れることにした。


 ノエルはフラッグシップで解散する事になったが折角買ったTSSR対物ライフルの改造パーツや弾丸あまり性能は期待できないとは言え回復薬それに今回の事もあるため少々高めのジャミングスモークグレネードを購入した


「毎度あり。にしても今回はごめんね、あんなに大量のモンスターの群れと勝ちあうとは思ってなかったよ」


「構わないさ、それに、こちらも少々無理な要求をした。このライフルは結構高いものなんじゃない?」


 ノエルはおまけで貰ったウエポンマウントに装備されたTSSR対物ライフルを指しながら聞いてみた


「まぁね。でも今回の報酬と相殺しても結構報酬金額になるかな。それも含めて今度商談したいかな、今度予定を連絡するよ」


「そんなにしっかりとした商談しないとダメ?」


「ノエルさんがウルフフラッグ所属なら多少報酬の割増でいいんだけど今回は外部のシーカーに依頼した形になる。対面の話さ」


 ノエルはその辺に疎かったが必要なのなら別にいいかと了承した。

 その後ノエルは疲労もあった為その日は真っ直ぐ家に帰って休むことにした。しっかり銃の整備を済ませてから食事や入浴を済ませて最近のちょっとした楽しみである紅茶を飲んでいる、それでもカフェインの入っていない製品で本物の紅茶ではない。その紅茶を飲みながら今後の予定を考えていた、強力な狙撃銃と言える銃を手に入れたが正直戦闘能力に不満があったのだ。

 それに何よりそろそろ乗り物が欲しかった、運転はできないがマニュアルを見て荒野で回復薬飲みながら練習すれば覚えられるだろうと思ったからだ。だが、レンタルはシーカーランクが足りなかった、最低でもレンタルにはシーカーランクが20必要なため現在ノエルでは借りられない。バイクが手に入れば機動力も手に入り遠い異跡にも向かえる、車は流石にそう簡単には買える値段はしておらずシーカー向けともなれば尚更高い。ここは機動力と小回りの聞くバイクを購入することにし下調べを始めた。

 大分夜も更けて明日は休みの予定とは言え明日に響くと考えノエルは情報端末を閉じて就寝した。

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