第9話:ウルフフラッグ

 早朝、ノエルが軽い訓練をしている。これは最近の日課となっており眠気覚ましも兼ねていてノエル自身の戦闘技能が未だ技術不足であると考えているためである。


 そんな中携帯端末に通知が入る。仮面を付けていればそのまま受けれていたが今は訓練中で付けていなかったので普通に応答した。


「もしもし?」


「あぁ、もしもしノエルさん?」


 発信者はグリスだった。


「すまない今日開いてるかい?少々依頼したいんだ。そう難しくない護衛依頼なんだけど」


(まぁ、巡回依頼は何時でも受けられるし装備の相談にものってもらっている義理もある)


「是非受けよう。特に予定は無かったし」


「それは良かった詳しい内容はシーカーオフィス経由で送るから確認して」


 通話を終了して直ぐにシーカーオフィス経由の指名依頼が来た。ノエルは直ぐに準備を整えて家を出て集合場所になっているフラッグシップに向かって歩き始めた。

 向かっている間に依頼内容の詳細を確認する。依頼内容は資材運搬車とその運転手のグリスの護衛報酬は一人頭基本報酬金額100万ルクルムに追加報酬となっていてノエルを除いて3名が護衛として既に雇われているようだ。


 集合場所のフラッグシップに到着すると以前言い争いをしていたあの三人とグリスが待っていた。


「お、来たね。早いけど行こうか自己紹介は中でするといいよ」


 グリスがそう言って大型のトラックの運転席に乗ると他の三人が後ろの荷台に乗っていくので3人の方について行き荷台に乗ると扉が閉まりトラックが動き始めた。


 三人組のうち二人の期限は悪くノエルはその様子を見ていると恐らくまとめ役なのだろう男がその視線を察したようで声をかけてきた。


「いや、すまない。ちょっとこの二人は前の異跡探査で色々あって機嫌が悪くてな。こう言っては何だが大目に見てやってほしい」


「構わない、こちらもシーカーを初めて日が浅いし不手際があるかもしれない」


「そうか。俺はサトナガと言う。こいつはリーナでこっちがレンヤだ。お前ら何時までむすっとしてんだ他のシーカーとの仕事してんだから最低限の礼儀は守れ」


 そうサトナガと名乗った男は残りの男女二人を指さし紹介した。流石に初めて一緒に仕事するシーカーにこんな態度はまずいと思ったのか二人のシーカーは自己紹介を始めた。


「私はリーナ。サトナガと同じウルフフラッグ所属よ」


「同じくウルフフラッグ所属のレンヤだよろしく」


「では、私も自己紹介をノエルというよろしく」


 軽い自己紹介が終わったところでグリスがやって来た。相変わらず機嫌の悪い二人を見て苦笑いを浮かべている。


「いい加減機嫌治しなよ二人共。ノエルさんが一番困ってるよ?一先ず依頼内容を再説明するね。このトラックはこのまま自動運転で移動都市オービターとの中間地点に向かいそこで荷物の受け渡しを行う。行って帰ってくるまでのモンスターからの襲撃を撃退するのが君たちへの依頼だ。車載広域レーダーに反応があれば機銃で攻撃もするけどメインは君たちだからね?」


 暫く戦闘も無くノエルがのんびり警戒を続けているとリーナから話しかけられた。


「さっきはごめんなさいね。ちょっと今揉めててさ…」


「気にしてないさ」


「そう言ってくれると助かるわ。貴方って…声的にも女性よね?」


「生物学的にはそうだと思う」


「貴方やたら男っぽい話し方をするのね」


 それを下で聞いていたグリスは興味津々に聞き耳を立てていた。


「私は記憶を失うほどの大怪我をしてね。目が覚めたのも二週間くらい前なのさ。言葉を覚えるにしたって口調なんかは担当した主治医なんかの影響を受けたんだろう。結論を言ってしまえば」


「女性と話したことが無くてどういう風に喋れば良いか分からない?」


「そうだ」


 リーナが疑惑の混ざった眼を向けノエルを見ているがノエルの顔は仮面で隠れており表情から真偽を探るのは無理だった。だがその目線の意図を察したノエルが若干ため息交じりに答えた。


「一応嘘は言ってない。調べてみればわかる事だ」


「そ、そう…でも女性らしい喋り方した方がいいんじゃない?愛想って大事よ?少しは女性らしい喋り方しなきゃ」


 ノエルはしばし考えた。本当にそうなのだろうか?と。結局先輩の同年代のシーカーがそう言っており別に困ることも無いので努力する事にした


「誠意努力しよう」


「まるでAIと喋っているみたいだわ…」


「暇なとき学術書ばかり読んでいたせいかもしれない」


「納得だわ…それとその仮面は?」


「これは異界の異物で結構便利で使っている。それに以前私の担当の看護師に顔を隠した方がいいと言われたので隠している」


「へーそう言われると見たくなるわ。外して見せて」


「外せと言われると外したくなくなるな」


 そんな雑談をしていると下からサトナガから注意を受けた。


「二人とも、仕事なんだ親睦を深めるのもいいがサボるんじゃねぇ」


 その後は雑談は慎みながらも周辺の警戒を続けた。

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