第11話:シーカーと縁起

 都市には勿論様々な店がある。ノエルが今居る場所は中古のバイク屋だ、勿論新品のバイク屋もあるしそちらでも良かったがある程度稼ぎがあるならまだしも現在はまだ安定した収入とは言い難い収入状況だ。昨日多少激戦を繰り広げたとしてもその金はまだ入っていない。グリスにも事情があるのはノエルにも分かる。

 なので今回は新品を買うよりも性能の良い新品を買うまでの繋ぎとして購入することにした、この店にも勿論新品はあるがそれは纏まった金が入ったとになるだろう。

 ノエルが店の店主と良いバイクは無いかと色々見て回っている、案外掘り出し物が無いかと思っての行動だ。


「これはどうだ?殆ど新品同然だ」


「うーん…そうね、悪くは無いんだけどシーカー向けの商品は無いの?」


 ノエルはリーナに言われた女性らしい口調を意識して喋り始めた、とは言えこれも自分なりにだが店主の反応を見る限り大丈夫だろうと結論付けたノエルはそのまま口調で話している。


「一応もう一台シーカー向けのがあるんだがなぁ」


「訳あり?」


「そうだ、そのバイクでモンスターに挑んで何人も死んでるって曰くつきのバイクなんだ」


「そう…それはやめておきましょうか」

 縁起という物はシーカーの間で信じる者は多い、別に神を信じる者は一人としていないがある程度そう言ったお守りや縁起の良い悪いと言ったものは信じられる。ノエルも別に信じているわけでは無いがあやかって命拾いするならそれに越したことは無いと考えている。ノエルは一度死にかけ記憶を失ったということもありかなり生に執着している、それにシーカーの中には勘を頼るものも多く昨日リーナと話している時もグリスにも同じ事を言われノエルは侮れないとこのバイクも性能はどうであれ購入を見送った。


「客に出せるもんじゃない俺が完全に趣味で作った物があるんだが…見るか?」


 店主は若干照れ臭そうにそうノエルに聞くとノエルは少々興味を持ち、面白そうだと見ることにした。

 案内された店の裏には一台のバイクがあった。一見普通のバイクに見えるがどうやら色々なバイクのパーツを組み合わせた物らしい、中には高額なバイクのパーツもあるとの事だった。


「こいつは俺が廃棄予定のバイクからまだ十分使えそうなパーツを組み合わせて作った奴だ。なんせ売り物にはならん、こいつはメーカー保障なんて物は無いし予備パーツも無いからな」


「いや、構わないわこれが良い。これも何かの縁というのでしょう?それに壊れていない幸運の結晶と言うことで縁起がよさそう」


 その言葉を聞いた店主は少し嬉しそうにバイクの鍵をノエルに投げた。


「残り物には福がある。ってか?いいさ、その代わりお前さんがここで使えそうな異物を手に入れたら持って来てくれ。後は整備もやってるからうちに持ってこい。それがこれを持っていく条件だ」


 その言葉を聞いたノエルは少し機嫌を良くしこう言った

「取引成立ね」


 ノエルが店主から起動の仕方や運転のコツを聞いて居る、何せ全く知識がなかった。それを聞いた店主は馬鹿笑いしていたがしっかり教えてくれた。


「あぁそれとこれは一応都市の中でも隠すようにしろよ?チェーンなんかで固定しても殆ど意味はない、中位区画は別だがな。基本荒野だろうが安全な場所以外では隠せ盗まれるぞ」


 スラム街は勿論ある程度安全な下位区画とはいえそういう輩はいる、むしろ下手に技術がある分その方が質が悪いと店主は言う。


「盗まれたくなかったらお前さんが強くなればいい話だ」


「ごもっとも」


「兎に角バイクの説明は以上だ、そういやお前さんの名前を聞いてなかったな。俺の名前は店名にもなってるから知っているだろうがクズハラだ、常連はみんなおやっさんって呼ぶな」


「ノエルよ、じゃあまた今度今度は新品を買いに来るわ」


「おい、壊すの前提かよ」


「善処はするわ」


 早速ノエルは手に入れたバイクにまたがり荒野に向けて走り始めた。


 ノエルが貰ったバイクで荒野を爆走している。最初こそ危なっかしかったバイクも少し乗って慣れれば簡単なものだ。強化服の身体能力と機体のオートバランサーが作動し相当無茶な運転をしなければこけることも無いし荒野で使用する事を前提にチューンアップされているので多少の段差や障害物くらい訳は無かった。

 向かう先はセルタス商業区異跡だ、オオミダイ住宅街異跡の先にある遺跡だが遠く何より強力なモンスターが多いため今でも数多くの異物がある。今回は汎用討伐依頼を受けて居る、昨日手に入れたTSSR対物ライフルを改造し徹甲榴弾を使って強力なモンスターを長距離狙撃の練習台の的にすることにしたノエルはある程度セルタス商業区異跡に近づいたところでバイクを隠し丁度良さそうな狙撃ポイントへ移動した。

 汎用討伐依頼は戦闘記録を元に報酬が支払われる、勿論そのモンスターの危険度に応じてだ。そこで長距離からワンショットワンキルが主体の戦法で戦えば弾代の節約にもなるし下手とはいえここのセルタス商業区異跡のモンスターは範囲外に出ることがないことが特徴なので逃げさえすれば追われる事がない丁度いい練習場所だ。敵は文字通り機械的な動きで巡回警備し地面が車に乗って居て揺れることも無い、まさに練習には持って来いでしかも金になる。だが以前の車上の安定しない環境での戦闘で最後にはかなりの命中精度を実現していたノエルからしてみれば改造パーツでの性能試験と多少金が稼げればいい、くらいの気持ちだった。


 今回の装備はTSSR対物ライフル、BBA突撃銃、TTA突撃銃ベクター、TTS短機関銃タボール、エクシウム、BBA突撃銃は改造パーツにより強装弾を発射可能にしてある。この強装弾はメーカーが販売している物で改造パーツ前提の銃弾だ、この改造パーツ自体もかなり高価でこれと強装弾を用いることでTSSR対物ライフルの専用弾とまではいかなくとも通常の徹甲弾相当のダメージを期待できるようになる。

 何よりTSSR対物ライフルは連射が絶望的に悪くその代わり威力と射程は驚異的と言える。だがTSSR対物ライフルはあまり好かれない、そもそもその距離まで近づけば敵にばれるからだ、敵のレーダーは大抵シーカーよりも優秀なことが多く車載用の高性能な広域情報収集機器でも無い限りTSSR対物ライフルの出番は少ない上に他の銃で代用が効いてしまう為だ。ノエルはそのことに気づいていないがそれでも連射性能はある程度何とか少々高めの改造パーツなどで補う必要はあると感じている。


(結構お金使ったから稼がないと、女性らしい喋りも練習しておかないとか。やれやれやることが多いな)


 そう思いながらノエルは高倍率レンズを覗き込み集中を始めた。

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