第190話 【最終話】嵐の前の……Part.13

 宴が解散となり、帰路を急ぐ片岡はタクシーで京都駅へ直行。

 山田と真奈美はまだ時間に余裕があったため散歩がてら徒歩で駅に向かった。


「お疲れ様。ところで、飲み足りなくない?」

「ふふふ、さすがにがぶ飲みできるシチュエーションじゃなかったですもんね」


 こうして、山田の勧めで、間接照明の空間で全席大きなソファーでくつろげる隠れ家風バーに立ち寄った。


 2人はスパークリングワインで改めて乾杯した。


「酒井さんが来てくれて3か月。本当に期待をはるかに超える活躍だったね」

「い、いえ、そんな……」

「ハードスケジュールだったのに夜や土日もかなり勉強してくれてたと思う。ありがとうね」

「とんでもない、こちらこそです。山田チーフや周りのみんなに親切に教えていただいたおかげです。ありがとうございました」


 真奈美は照れながら、スパークリングを飲み干すと、2杯目に選んだカクテルを転がしながら、この3か月を振り返った。


(IM分析、面談、意向表明……鈴木部長の宿題重かったな。DD、QA、交渉……小巻に世話になったわ。そして鈴木部長リベンジ。経営会議。つい昨日のことのよう……)


「どうだったかな?酒井さんがMA推進部に来てやりたいと思ったことに近づけたかな?」


 実は、山田は部門No2という立場上、真奈美が社内募集のときに人事部に提出した応募理由を見たことがある。そこにはこう書かれていたのが印象的だった。


『M&Aで事業に奇跡を起こしたい』


 真奈美も、自分が書いたその言葉を思い浮かべながら答えた。


「――もちろん、まだまだですけど、片岡本部長や事業本部のみんなの笑顔を見れたので、少しだけ近づけたんだと思います」


 口に出してみると、出資プロジェクトをやり切ったという満足感がどんどん湧き出てきて、瞳がうるんでしまう。

 

(今日だけは、少し、私を褒めてあげよう……)


 そして、3杯目のカクテルを飲み干した。













 ……で、山田は最後に笑顔で付け加えた。


「それは良かった。ところで今、別の案件が佳境で超忙しく困ってるんだ。明日から手伝ってくれる?」


(ええー??もう次?しかもいきなり佳境?)


 残念ながら、ゆっくりする暇もない真奈美であった。

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