第188話 ついにクロージング完了

「それでは、弊社からの送金を実行させていただきます」


 山田が宣言をした後、真奈美はWeb会議のマイクに向かって告げた。


「四谷さん、送金対応お願いいたします」

「承知しました。それでは、しばらくお待ちください」


 そして、しばらくすると、


「送金指示完了しました。御社側での着金確認をお願いいたします」


 四谷からの返答を聞いて、岡野が内線で社内に指示を出し、待機時間となった。

 片岡と森はビジネス談議を始めているが、真奈美を含め他のメンバーは緊張し沈黙している。


 真奈美は段取り表に目を落とした。


 着金確認が完了した後、宮津精密が株主名簿を書き換えることで出資は完了する。


 しかし、なかなか着金確認の連絡は帰ってこない。

 もうかなりの時間を要しているのでは、と思い時計を見るとまだ10分ほどしかたっていない。


(緊張の時間が長いと、ドキドキが増幅されちゃうわ……)


 真奈美が落ち着こうとペットボトルのお茶を口に含んだとき、岡野の内線の呼び出し音が聞こえた。


「うん……うん……わかった」


 さすがの片岡と森も雑談を止めて岡野を見る。

 岡野はそっと全員を見渡すと口を開いた。


「無事、着金を確認出来ました。ありがとうございました」


 これを聞いて、緊張していた雰囲気が一気に緩んだ。


「これで、出資は無事完了ということですね」

「はい、新しい株主名簿記載事項証明書も用意しております」


 事前に提示している株主名簿交付請求書に基づき、岡野は用意していた新しい株主名簿を片岡に手渡した。


 それを机の上において眺める片岡。その両わきから、山田と真奈美が覗き込む。


 ――そこには……『白馬機工株式会社』の社名がしっかりと印刷されていた。


「片岡さん、山田さん、酒井さん、この度はありがとうございました」


 改めて森社長が頭を下げると、大津証券の谷口が拍手を始めた。

 そして、その場にいる全員が盛大な拍手の渦に巻き込まれていた。


(ああ、本当に、出資が実現できてよかった)


 みんなの本当にうれしそうな笑顔をみて、真奈美の胸にも込み上げるものがあった。


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