第176話 みんな見ている

「なんでPM(プロジェクトマネージャー)を推進してきた山田チーフじゃなくて、鈴木部長が報告するんですか?」


 真奈美は、なんか理不尽だと感じた。

 投資委員会は最終決裁の場であり、ある意味晴れの舞台。今まで反対派だった鈴木部長が、晴れの舞台だけしゃしゃり出て主役を演じるなんて……


「ははは、上から否定されるリスクがなくなったからね。鈴木部長も安心して自ら報告できるということだろう」

「でも、それって……おいしいところだけ独り占めって感じじゃないですか」


 山田は苦笑いした。


「まあ、そうかもしれないけど。でも彼がMA推進部の部長なのだからおいしいところは食べてもらって、プロジェクトがうまく進むことの方が結果的には良いことだと思うよ」


 確かに、そうかもしれない。と理性では理解しても感情は収まり切れていない真奈美に向かって、付け加えた。


「それにね、投資委員会の報告者がだれだろうが、本当に頑張って成果に導いたのは誰か、みんなきちんと見てくれているんだよ」


(ん?……)


 フシギそうな顔をしている真奈美に向かって、山田はつづけた。


「片岡本部長がね。今晩一緒に食事どうかって。酒井さんもお誘いしたいらしい。一緒にお礼を受け取りに行こうか。今日大丈夫?」


 真奈美は、山田を中心としたこのチームが認められたと知って、ほっとして食事のお誘いを快諾した。


 でも、真奈美は気付いていないようだった。


(片岡本部長がお礼を言いたいのは、『酒井さん』なんだけどね)


 山田は苦笑した。

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