第161話 協業座組を軸とした考え方

「実は弊社でもいくつか折衷案を考えてみました。担当より説明をさせてください」


 こうして第二打席は真奈美に渡された。

 真奈美は、この二人が築いた議論の礎にほんの少しの亀裂もつけないように、慎重に話を進めていった。


「……ということで協業座組を維持したいと考えておりますが、協業の役割が変わっていくこともあり得るでしょう。ですので、例えば5年間の協業座組は固定する案を提案させていただきます」


 真奈美は具体的な内容の説明を行った。


 ・最初の5年間は譲渡制限あり(宮津精密案)、プリエンプティブあり(白馬機工案)

 ・6年目以降は、譲渡制限なし+タグ・ドラッグあり(白馬機工案)、プリエンプティブは解除(宮津精密案)


 これを聞いた森社長はまんざらではない雰囲気だった。


「確かに、協業座組を軸に考えるのであれば、合理的な提案です」

「ありがとうございます。それともう一つ、重要事項全会一致とSSAに関しては弊社案を再検討いただきたいと思います」

「少々お待ちください」


 森社長はしばらくミュートにして内部で相談をした後、マイクを戻して回答した。


「正直にいいますと、SSAの表明保証はやはり限定を考えていただきたい」


 それを聞いて、片岡が割って入った。これも事前の予定通りの流れである。


「森さん。それであれば痛み分けにしませんか。表明保証は御社の要求をのみましょう。重要事項全会一致は弊社の要求を呑んでもらえませんか。ここは両社の協業を維持するためにも、弊社としては譲れないポイントです」


 それを聞いて、森の表情は少し和らいだ。


「わかりました。片岡さんのご提案を受け入れさせていただきます。折衷案の提案ありがとうございます」


 交渉が山場を越えゴールが見えた瞬間だった。


「とんでもない、こちらこそありがとうございます。それでは早く契約をまとめていきましょう。協業の契約も、そちらに事業部長を送らせてもらいましたので、こきつかってください」


 がはははという片岡の笑い声を伴い、トップ会談は円満に終了することとなった。

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