第160話 お互いの主張

「この度はいろいろとご検討をいただきありがとうございます。また本日は打ち合わせのご提案をいただきありがとうございました」


 森社長が丁寧にあいさつを始めた。


「まだいくつかの協議事項が残っていると聞いておりますが、本日決着できるよう議論を尽くせればと思います。よろしくお願いいたします」


 こうして最終交渉が開幕した。

 事前の作戦通り、先制をしたのは片岡本部長だった。


「我々は事業提携が目的、加えて出資者としての権利の維持と出口も確保する必要があります。お互いの関係を良い関係で維持し続けるためにも、我々の提案を再検討いただきたい」


 これは白馬機工の会社方針でもある。と、片岡は丁寧に説明を行った。


「ご提案ありがとうございます。ですが、弊社としても御社との協業を実現させるのであれば御社が保有する弊社株式の他社への売却も想定したくないところです」


 森社長も瀕死の宮津精密を復活させここまで大きくしてきた切れ者である。

 片岡との1対1の議論が続いた。


 しばらくはお互いの主張をしあって平行線になるかと思われた矢先、片岡が打開に踏み込んだ。


「……お互いの主張はどちらも正当ですな。とはいえ、このままでは埒があかない。どうでしょう。少しお互いの妥協できるポイントがないか、目線合わせをしませんか」

「もちろん、そういう議論をさせていただけると助かります」


 森も片岡との舌戦は緊張したのだろう。安堵した表情を浮かべた。


(双方、主張すべきところはしっかりと主張したうえで、満を持して折衷案の議論に入る。確かに、この方がお互い納得感が高まるわね)


 真奈美としては、本部長や社長という事業責任を担う者同士のハイレベルな交渉を目の当たりにするのは初体験であり、圧倒されながら攻防を聞いていた。

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