第155話 事業本部の責任と信頼

 翌日の5月30日金曜日。5月度営業日最終日である。


 真奈美は昨日夜から片岡本部長と相談するための資料作成を始めており、午前中には何とか準備が完了した。


 現地DDを終えて、契約交渉に入って1週間。6月中旬に契約するという目標を考えると、そろそろ交渉をまとめ上げていかなければいけないタイミングである。


 佐々木と相談し、午後早めに片岡本部長に状況報告、相談をすることとなった。


 そして迎えた片岡本部長との会議は、まずは事業本部内の協業契約の状況報告から始めまったが冒頭から荒れ模様だった。


「1週間もたったのにまだ協業契約がまとまっていないとは、どういうことだ!?」


 事業部長からの報告内容に納得できない片岡の怒号が響いた。

 笑うときだけでなく怒るときも同様に大声だから、迫力がすごい。


「事業部長陣頭に仕切っているんだろ?早く協業契約をまとめないと本社の手続きも進まないだろ」

「はい、連日協議を重ねていますので……」

「結果が必要だ。加速しろ。京都に行って宮津精密の開発部隊に張り付いて内容と条件を固めてこい」


 ……あちゃー。経営管理時代もこのような場面にはよく遭遇していたので驚きはしないが、慣れることはない。


 本部長の怒号は、事業責任のすべてを担い統率するものとして、部下を信頼しているからこそ発せられる非常に重いメッセージ。

 事業部のメンバーはそれを理解していた。


「はい、許可をいただければ、本日からでも現地に私も張り付きます」

「許可する。このプロジェクトはうちの本部の要だ。最優先に対応せよ」


 こうして、事業部長自ら週末にもかかわらず京都に押し掛けることが確定した。

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