第149話 空気が読めない

 挨拶を終えると、真奈美はSSA(株式引受契約)のタームシートを、条項順に丁寧に説明していった。


「株式の発行と引受け内容につきましては、MOUで合意した内容からの変更はありません。払込み方法とクロージングにおける株式の発行手続はブランクとしておりますので、御社にて記載をいただければと思います」


 そして、いよいよ表明保証と補償条項の説明に入った。

 真奈美の説明がより慎重に進む。


「……表明保証については、以上となります。ここまででご質問はありますでしょうか」

「少々お待ちください」


 大津証券はマイクをミュートにして、内部相談を始めたようだ。


 We b会議なので相手の会場全体の様子は見えているものの出席者の表情はつかめず、どのような議論がなされているかの雰囲気は把握できなかった。


(空気が掴めないのって苦手なのよね……)


 しばらくして、大津証券がミュートを解除して一言答えた。


「一旦、最後まで説明をしていただけますか」

「わかりました。それでは続けます」


 こうして、大津証券の腹の内がわからないまま、真奈美はSSAの説明を最後まで進めた。


 説明が終わると、大津証券から、表明保証を中心に意図確認の質問が繰り返された。

 これについては同席している小巻が、ひとつづつ説明していった。


「ありがとうございました。主旨は理解できました。表明保証と補償のところを中心にマイアミ様とも十分に協議し回答させてください」

「わかりました。それでは、ご検討をよろしくお願いいたします」


(……理解はしたけど、納得はしていないということね)


 想定内の反応だった。

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